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2017年8月15日 (火)

「詰棋界」 その55

 プチ懸賞出題中です。8月20日まで受付。

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 第4巻第3号(通巻第20号)のつづきです。全体のページ構成はこちら

不完全作をめぐって
川崎弘

B「四五日前だが、この作品が完全か不完全かで議論がわかれてね」

(第1図)Y・I氏作

1

A「24桂、同飛、13歩、21玉、22歩、同飛、43馬、32飛、同馬、同玉、
44桂、22玉、31角成、23玉、22飛、33玉、43桂成、同玉、53馬、33玉、
32桂成までか。21手、なかなかの作だね。別に問題はないようだが?」
C「これじゃないか?(参考図)14手目23玉で33玉なら34飛以下同手数の尾分れだが……」

(参考図)
14手目23玉迄

1_2

B「それもあるがね。その次の手、22飛を21飛でも詰むのさ」
A「なるほど詰むナ。でもこれくらいなら不完全とまではいえないんじゃないか? 感心しないのはもち論だが……」
B「そういう人が多かったね。所が、しからば不完全とは何ぞやとなると議論百出さ」
A「それだよ。検討でいつも困るのは。どうしても一度確定的なルールが欲しいね」
C「いわゆる詰将棋憲法だね」
B「同感。しかしいつか発表された草案も、全棋界に共感を呼ぶって所までは行かなかったね」
A「僕はいつも思うんだが、法律とか、規則とかいうのは、天下り的に決めてもなかなか守られるもんじゃない。不文律又は習慣として、長い間一般に行われているものを成文化するという形が本当だと思うよ。従来の色々な試案は、その点足が地についていない感じがあったんじゃないかね」
C「そういえばそうだね」
B「不文律っていうと、たとえば今の所なら?」
A「収束にあるていどキズがあっても、作品が立派で、キズを補って余りあれば、不完全扱いしない-大体これが多数意見だろう?」
C「名作の小キズは許す-ってわけだね」
A「つまり、完全作には、絶対的な意味での完全作と、相対的意味での完全作、つまり作品の価値から見て許しうるていどのキズのある作とを含むわけだ」
C「でも、"名作"とか"小キズ"とか云うのがすべて主観的なもんだろう?」
A「そう」
C「すると、僕が不完全というのに、君は完全扱いするような、アイマイな時が出来るが……」
A「それが一番欠点だね」
B「所でA君の説は、実は理論的に矛盾があるよ」
A「ハテネ、矛盾というと?」
B「いいかね、今論じてるのはある作品が完全か否かってことだろう。不完全ならもち論作品として成立しないわけだ」
A「それで?」
B「所で一方、ある作品の"価値"を論ずるということは、その作がちゃんと成立した後での話」
A「うん」
B「キズつまり軽い余詰だね、それを作品価値で補い得るというなら、余詰なるものは元来作品の"評価減"の対象ではあっても、"不完全"の条件にはならぬ、といえるんだ」
C「そうかなあ。そういえばそんな理屈になりそうだが……」
A「だが待てよ。余詰は本質的に評価減の条件にすぎない、という君の説を認めるとしてもだね。あるていど以上のキズなら自然大きな評価減をきたして、結局作品として成立しなくなるんじゃないか?」
B「もち論そうさ」
C「それじゃ、やはりどの程度のキズが許せるかって所に戻るね」
B「理論的に筋を通した迄さ」

※Y・I氏作は岩谷良雄作 旧パラ1952/05



A「昔の作は大体ルーズだな。収束の別詰は頭から無視だ」
B「終戦直後でもそうさ。キズをやかましくいい出したのは、ここ数年だね」
C「手順前後、回り道、それから収束の余詰。尾分れや変化長手数もそうだが、キズにもいろいろある」
A「僕は無暗にキビしいのは考えものだと思うね。制限をゆるくして好作の出易いようにしたいナ」
C「具体的にいうと?」
A「数やていどにもよるが、まあ最後の三手位なら構わんだろうな。手順前後は不完全とせぬ。回り道は攻方最短の原則から問題なし、変化長手数は二手くらい長くても駒余りなら見逃す。尾分れは問題外、とまあこんな所か」
C「そりゃ反対だ!」
A「何故」
C「そんな呑気に構えてちゃキリがないぜ。その上、名作はこの限りに非ず、と来た日にゃ、殆ど野放しだぜ。大体詰将棋は芸術だ。あくまで純粋なものであって欲しいね。芸術-」
A「オットット、一寸待った。芸術論は君の持論だが、それを持ち出すと又話がコジれる。今日は芸術論はしまっといてくれ給え」
C「うん。それでだね、僕は断然最終手の別詰以外の一切は不完全として扱いたいね」
A「当るべからざる勢だナ。所で古作は?」
C「古作は別さ。その当時の常識の下で作ったんだから」
A「君の評価論はもっともだが、そんな厳重なものにして、どれだけ守れるか疑問だと思うナ」
C「正しい規則を守らぬって法があるもんか」
A「怒ったって、それが現実さ。守る人のない規則ほどみじめなものはないよ」
B「憲法第九条かね」
A「違いない。-ともかく僕は矢張り最初にいったように、自然発生的な意味を重視したいね」
C「しかし規則には、指導とか理想とかの面も必要だよ」
A「いや、現実の方が先だ」
C「理想がなくっちゃ」
B「おいおい、横道に入ったよ。具体的な例に戻ろうや」



B「所でC君は、最終手以外のはいけないって説だね」
C「うん」
B「というと、最終手での余詰は別に構わないと規定するのかい?」
C「当り前じゃないか」
B「それじゃこの図だ」

(第二図)
2

A「ああ七手詰の古作だね」
C「知ってるよ」
B「この図の最終手97金。もしこの手で76金以下でも猶詰みがあると仮定するんだ。そしたら、この作は全然意味ないだろう」
C「ウーン」
A「ハハァ、最終手の別詰でもこれなら立派に余詰扱いだナ」
C「ナルホド千切る秋ナスビって奴だナ。弱ったね」
B「最終手は問題なしってのはね、背後に、一手詰は誰だって間違いっこないという考え方がひそんでるのさ。簡単に三手はいけない、一手はよいなんて決めるのはダメの皮だよ」
A「手順前後は良いだろう? 本質的には別手順じゃないんだから……」
B「手順前後だって広うござんす。この図はどうだ」

(第三図)
S・I氏作
3

C「ハハア逃道はここか。25桂か31馬の筋らしいナ」
A「31馬さ。同金、25桂、同と、14歩、22玉、11銀、21玉、31飛、同玉、22金で11手」
B「それが作意なんだが、初手25桂が成立するんだ」
C「同となら31馬で手順前後成立だね」
A「22玉がありそうだが?」
B「31馬、11玉、21馬、同銀、12歩、同玉、13銀、11玉、12金、同銀、31飛成…」
C「四手長いね」
A「手順前後かな、余詰かな」
B「仮に、手順前後はいいと決めると、おもしろくない例が出てくる。さらばといって、最終手以外はいかんと決めると又不都合が起ってくる」
C「エーイ面倒臭い。最終手だろうが、回り道だろうが、ともかく作意外の別手順は絶対に作らなきゃ良いんだろ、作りさえしなきゃ」
B「オヤ、C君カンシャクを起したね。そんなら鋸引が作れないぜ。あれは誰が作ったって回り道が成立する」
A「おいおい変な揚足を取るなよ。一体君はどうするってんだ?」
B「"不完全作の限界"を求めようたって無駄だってことさ」
A「………?」
B「つまりこの線からこっちは不完全、向うは完全というような線は、到底引けない。強いて引けば、後から後から矛盾した例が出る。さっきのは一例だが……」
C「なるほど」
B「だからいつも、詰将棋作品には作意以外一切の別手順を許さぬというとの原則をまず確定する」
A「それで?」
B「次に、これに反する場合はその程度に応じ減点する。例えば普通最終手の別詰なら、ごく小さい減点で作品価値に影響しない。大きなキズは大きな減点をこうむって発表価値がなくなる」
C「具体的には」
B「それは時代により、又人によりさ。ともかくこれが矛盾の解決の唯一つの行き方だと思うね」


※S・I氏作は伊藤昭一作 詰棋界1952/11



 現実家のA君、理屈屋のB君、理想派の純粋派C君、三人の討論の形で"不完全"をめぐる問題を取り上げました。
 私の意見をまとめると
① キズ(余詰も)は本質的には不完全判定の対象ではなく評価減の対象である。
② 完全、不完全の間の一線を成文化することは不可能。
の二点に帰着します。
 それではどうすればよいかといえば、消極的には-
 種々のキズについて、減点基準を実例をもって決めること。
 しかし更に積極的には-
 各誌の詰棋欄の担当者がキズのある作を採らぬと宣言すること。
 このいずれかで、この問題は実質的に解決するでしょう。
 なお本篇では、作意外の別詰なる形のキズを主に取り扱いましたが、玉方の逃げによるキズ、すなわち変化長手順や尾分れについてもほとんど同じことがいえましょう。
 この事については、先輩諸氏の御意見が聞ければ幸いです。


※なるほど千切る秋なすび、という諺?は知らなかった。
相づちを打つときの「なるほど」というのを、こっけいに言ったもの(「新編故事・ことわざ辞典」1992/08 創拓社)


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マド
◆ 四巻二号を見て
 新春一題集賞品受け取りました。酒井桂史作品集はまだ出来ないのですか?
 詰将棋奇談が断然たる出来栄え、その他研究物では反論ばかりだが、一々もっとも。新年号付録の如き図式を発行する考えはよい。
東京 北原義治

◆ 将棋攷格を
 万象解説終了後は将棋攷格の解説をお願いしたい。
 詰棋界の年八回発行案は賛成。春秋に斬新な企画で臨時号の発行を考慮されたらばなお可。
水戸 坂巻義郎

☆四巻三号が編集部の不手際から発行が大変遅くなりましたことは真に申し訳ありません。次号は発行を早めるとともに別頁広告の如く豪華なものを作ります

◆ 握り詰について
 握り詰の〆切が意外に早く創作を断念すること再三ではない。もう少し延ばして頂きたい。なお、十四枚の駒は少し多いと思います。
 恐らく短、中、長篇作家のためその中間を選ばれたのではないかと思いますが思い切って五、六才の幼児に握らしては見ては如何
小樽 田中至

☆握り詰ですから編集部で手を入れることはありません。袋の中に入れた三八枚の駒より握り出されたものが毎月の課題となります
〆切は少し延しました。


「酒井桂史作品集上」乞御一報
仙台市 和田義郎


詰棋界創刊号より一巻四号まで
世田谷区 浅野博

詰棋界既刊号について
▲一巻一号~四号まで品切れ
▲三巻一号 品切れ
△一巻五号以下(三巻一号を除く)在庫若干あり、入用の方はお問合せ下さい。


※通巻13号の時点で1巻1号~4号は品切れになっていた。


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第14回会計報告
摘     要 収入 支出 残高
2 前回繰越 7,764
前回払込者12名 2,130
新入会者4名 590
寄付金3名 260
会報送4×8 32 10,712
3 追加払込者8名 1,350
新入会者5名 780 12,842
会報印刷(4巻2号) 4,880
会報発送(247) 1,976
案内ハガキ100枚刷 650 5,236
次回繰越 5,236

※残高は5,336円だと思う。

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