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2017年2月17日 (金)

忘れられた論客 その11

 1939年1月号に杉本の作品集「白翠選圖集」上巻50局と第25番の途中までの解説が掲載されています。2月号にはその続きから第50番まで。

Photo_8     


 上巻とありますが、下巻はありません。
 作品集出版を前提にした個展のようなもので、それまでにも月報では詰將棋第三部集や第一部集などの誌上発表はありましたが、古典ではない個人の作品集が掲載されたのはこれが初めてでした。
 2月号に「本書は本社では販賣いたしません御入用の方は」として岡山県上道郡平島村(現在、岡山市)の杉本の住所が記されています。
 まえがきを紹介します。

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杉本兼秋著
白翠選圖集
集録の作品に就て

此の五拾局は九年より現在迄數ヶ年の間に各誌に發表した作品の内より選んだものであります。
集成の作品に對する自信は更にありませんが貧弱ではあるが兎に角是だけまとめる事の出來た僅かな喜びを感じてゐます。
始めは百局集録の考へで居りましたが創作に入つて未だ日の淺い私としては百局の作品がその殆んど全部であるので百局選ぶには意に滿たない作品も入れねばならず。其内の數拾手以上の作品は發表するには餘りにも價値無きものばかりと思ひ遂五拾局集成する事に決めました。
純創作型作品の創作が年來の私の宿望でありますが創作型を作るには今尚其創作力が餘りにも非力である事を考へました。
藝術的價値無き創作型作品程其存在の無意味なるは無いと思ひます。
集録の作品中殆んど實戰型であるのも此の意味であります。集録の作品は皆懸賞課題として創作したもの故解説を見て調べる作品として興趣少きものかも知れません。
作品に附せる解説は冗漫なる個所多くある事と思ひますが是から詰將棋を研究せられんとする方の爲此作品を調べるのが少しでも容易なればと思
て附記したるものであります。
集録の作品は本誌へ發表せる以外のものが過半あり其作品を未知の方に調べて頂かうと思
たのが此作品集成の目的なのであります、作品中貳參變化手順の長いものがありますが御寛恕の程お願ひ致します。
前記各點を御諒承の上此初期作集成を御笑覧下されば幸甚と思ひます。
一九三八年仲秋 著者
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 選圖集の50局を並べてみましたが、手数は9手から91手まで。短篇(~17手)18局、中篇(19手~49手)31局、長篇1局です。
 まえがきにもある通り、いわゆる実戦型が過半数(
「殆んど」ではない)を占めています。不完全作は19局あります。手順前後や24桂と打つところ44桂でも良いといた非限定を大目に見れば15局。
 このうち、いくつか紹介します。
 初出は調べてみましたが、月報以外はほとんど分かりません。
 手順は漢字を半角数字に変え、74金打などの「打」(当時は攻方持駒の着手にはすべて「打」を付けていた)は省略しました。

第六番(初出は月報1935年11月号)

2617

82角成、84玉、93角、同桂、74金、同龍、93馬、同玉、94香、同龍、
82銀、92玉、93歩、同龍、同銀成、同玉、99香、94桂、同香、同玉、
95飛、84玉、76桂、74玉、86桂、同香、75飛
まで27手詰


【解説】82角成、84玉、93角、同桂迄は當然の順であらう。此時93馬と取ると同玉、94香、84玉と上られて74玉の順があるから續かない。74玉の順を防ぐ74金の妙手を發見出來やう。同玉でも同歩でも73馬であるから同龍の一手である。此74金を93角と打たずに行ふと同玉で桂の利きがあるから失敗する。
93馬、同玉、94香、同龍、82銀、92玉、93歩、同龍、同銀成、同玉、95香、94桂合此合は桂が最善で歩では同香、同玉、95歩で何れへ逃げても飛打の詰である。
同香、同玉、95飛、84玉、76桂、74玉、86桂と飛車の筋を通して75飛迄である。
---

86桂、同香、95飛が成立します。


第拾九番(「將棋時代」1933年10月号)

2630

24桂、同桂、12飛成、同香、33金、同玉、11角、32玉、22角成
まで9手詰


【解説】本局を一見して解るのは玉を33より44へ脱出させては絶對に詰まないと云ふ事である。此想定で22金、21角等は無い事になる。先づ浮んで來るのが33金、同玉、22角の順であるが32玉と引かれても24玉と上られても詰まない
12飛成と桂を取
ても同香、33金、同玉、11角、24玉と上られて桂二枚では詰まない
11角の時24玉と上ることが出來ないと假定したら、24の逃路が玉方の駒で閉鎖されてゐるとしたら32玉、22角成の詰である。
最初24桂と打つ、是は玉方の逃路44、24を44のみに限定させる輕手で33玉は22角、24玉、15金迄。同歩は22金迄である。24同桂直ちに33金では同玉、22角、32玉で詰まないとすれば12飛成と捨てる順は容易に浮んで來ると思ふ。
33金、同玉、11角、24が桂で閉鎖されてゐるから32玉の一手、22角成迄で成功である。
---


 まえがきに「九年より」とありますが、本局は昭和8年の発表作です。


第貳拾壹番(初出不明)

2632

22金、同銀、13歩、同銀、24桂、同銀、22金、同玉、31角、32玉、
43金、同玉、41飛成、33玉、42龍、34玉、45龍、33玉、34歩、32玉、
42龍
まで21手詰


【解説】本局は最初の着手が可成多い。21飛成でも詰の如く見えるが打歩詰になる。又52飛成、13歩、24桂等の手段もあるが33銀の守備が強いから僅かの處で殘る事になる。本局の主眼は此33銀を移動させて31角を狙ふ處にある。
第一着手、22金(同玉なら31角、12玉、24桂、同銀、52飛成迄である)、22同銀、13歩(同玉なら24金、同歩、同金、12玉、13歩、同銀、34角、22玉、23角成迄)、24金の時12玉なら23金左、同銀、13歩、同桂、21角、22玉、52飛成、32歩、23金、同玉、32龍迄である。
13同銀、24桂、同銀、22金、同玉、31角、32玉、43金以下容易な詰である。
---

 一回転させたかったですね。


第貳拾參番(十の字)(「將棋世界」1939年1月号)

2634

12香、同玉、24桂、同銀、13歩成、同銀、24桂、同銀、23銀、13玉、
14銀成、12玉、23成銀、11玉、22金、同香、12歩、21玉、32角成
まで19手詰


【解説】一見して最初の着手が持駒に依る事は明らかであるが第一、23桂、第二、12銀、第三、22銀、第四、12香の四手段がある、
先づ23桂と打
て見る玉方同香と應ずれば12香、同玉、23角成、11玉、12銀迄で詰むが輕く12玉と上られると13歩成、同玉と上邊に脱出せられて詰まない。
12銀と打つと同玉、13歩、同玉、19香、24玉で詰まない。
後は22銀と12香であるが、22銀は玉方22同銀と取れば12香、同玉、24桂、11玉、22金、同玉、32角成、11玉、12銀迄で詰であるが22同香と取られると12香、同玉、22金、同玉で詰まず13歩成でも同玉、14銀、24玉とな
て詰まない。
以上の三手段が失敗だとすると正着は後に殘
た12香と云ふ事になる。
12香、同玉、此處で13歩成、23銀、24桂の三様の手段があるが13歩成、同玉が上部へ脱出の形であり23銀は11玉と逃げられると後續が無い。24桂、玉方同香は13歩成、同玉、23角成故同銀と取る。攻方23銀と打
ても11玉と逃げられ後の手掛りが無い形であるが此の時14歩が無いと假定すれば22金、同香、12歩、21玉、32角成の詰が出來てゐる。
24桂、同銀の時13歩成と捨てるのが輕手で玉方同銀と應ずる、直ちに23銀は11玉、22金の時、玉方の銀が13へ下
てゐる爲同銀で打歩詰の局面となる。此22同銀を消す爲に再度24桂と打て同銀と移動させておけば以下23銀、13玉、14銀成、12玉、23成銀、11玉、22金と打歩詰を打開して、同香、12歩、21玉、32角成で成功する。

---
 この作品は紹介済みです。選圖集も1月なので「將棋世界」に発表したのと同時に月報にも掲載されたことになります。
 左は月報、右は將棋世界の図。月報は33金ですが、こちらはと金です。
 

193901_3 193904_2



第44番(月報1938年11月号)


2655

31角、12玉、24桂、同金、23桂成、同金、24桂、同金、13歩、同桂、
21銀、23玉、22角成、同玉、32馬まで15手詰

【解説】持駒に金が無いから13玉と上らしては絶体に詰の無い形。
第一着手が31角は當然であらう。同玉なれば42銀、22玉、33銀成、同桂、32金、13玉、23桂成、同玉、33馬、13玉、25桂、12玉、22金迄の詰。
12玉直ちに23桂成では同玉で上邊脱出は防げない24桂と打つのが好手である。
同歩は23銀、同金、同桂成、同玉、35桂、12玉、23金迄。同金、同玉()では24玉が無いから32銀、12玉、21銀、23玉、22角成、同玉、32馬迄である。
此時13歩では同金と寄られ同角成では同玉で駒が不足の形である。
又34馬と引いても23金と合をせられて續かない。13金を消す爲再度24桂と打捨てる同金、13歩、同桂、21銀、23玉、22角成と捨て34玉の順を防いで32馬で詰となる。
---

 44番と48番も紹介済みです。
 24桂、同金、23桂成、同玉の手順を指しているのだとしたら、32銀、12玉、21銀生、23
玉、22角成、同玉、32馬では、13玉で逃れ。ただし、22角成のところ35桂、同金、32銀生、24玉、42角成で詰みます。


第48番(初出不明)

2659

25桂、同龍、24銀、同龍、25桂、同龍、35角、22玉、33金、同香、
11飛成、同玉、13香、21玉、12香成、31玉、13角成、41玉、23馬左、32歩、
31馬、同玉、22成香、41玉、51銀成、同玉、33馬、61玉、51馬、同玉、
63桂、61玉、71桂成、同玉、62金、81玉、83香、91玉、82香成
まで39手詰


【解説】此局面では23金、同龍、同馬、同玉と交換しては詰が無い。持駒の桂と17角の配置を見れば此活用に依
て龍の利き筋を遮斷する順を發見出來やう。
第一着手として角の活動を阻害してゐる35銀を捨てる順が考へられるが直ちに24銀では同銀で下邊に龍の利きがあるから詰まない。
25桂、同龍、24銀、同龍再び25桂と打
て35角を狙ふ。
22玉なら31飛成、同玉、42と、同玉、53角成、32玉、33香、同龍、同桂、同玉、23金迄
又42との時22玉なら23香、同龍、同馬、同玉、33飛、24玉、35飛成、23玉、33龍、12玉、13龍、21玉、33桂迄である
25同龍、35角、22玉、31飛成は52桂の守備の爲に詰が無い。
33金、同玉なら31飛成、32銀、43と、同玉、53角成、33玉、42馬迄
33同香、11飛成、同玉、13香、21玉、12香成、32玉なら43と、同玉、53角成、32玉、43銀、41玉、42馬迄
31玉、13角成、32玉なら22成香、同龍、同馬、同玉、12飛、21玉、13桂、31玉、42と迄
41玉、23馬、32金合なら同馬、同玉、31金、32銀合なら31馬、同玉、22成香、41玉、32馬、同銀、42銀迄。又32桂合なら直ちに51銀、同玉、33馬で本手順より四手早い
32歩合が最善の應手。
直ちに51銀成では同玉、33馬、同歩、63桂、41玉、42香、32玉で飛車を交換しても詰は無い
31馬、同玉と取らして22成香と寄
て置くのが良い41玉、51銀成、同玉、33馬、同歩なら63桂で二手早く詰む
61玉、51馬、同玉、63桂、61玉、71桂成以下本手順の詰である。
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