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2016年6月 5日 (日)

盤前漫筆

 この○は? 解答募集中です。


 酒井桂史には「盤前漫筆」と題した一文が二つあります。
 このうち、「将棋月報」1926年8月号のものは「詰棋めいと」第10号(1990年3月)に全文掲載されているので、知られているのではないかと思いますが、その前月、1926年7月号にも「盤前漫筆」があります。こちらは寡聞にして紹介されたものを見たことがありません。

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本誌六月號で前田三桂氏から詰將棋創作の苦心談でも書けと云ふ御勸めを受けましたが(
※1)、實に恐縮の至であります。斯道に指を染めてから未だ年月の淺い私の事苦心談と云ふやうなものを公にするにはまだ餘りに經驗に乏し過ぎます。
先年櫻井先生
※2からも同様の御勸めを受けた事がありましたが、同じ理由の下に辭退したのであります。今度も辭退の外はないのであります。惡しからず御思召を願ひます
   ×   ×   ×
本誌の表紙の「將棋月報」と云ふ題字は今少し何とかならないでせうか(
※3)、勿論關根名人の書を兎や角申すのでは毛頭ありません、印刷の仕方を變へて欲しいのであります、あの網目版を止めて凸版といふのか何といふのか知りませんが將棋新誌※4あたりに見るやうなのにして頂きたいのです。さうすれば今より一段と見栄ゑがすると思はれます
   ×   ×   ×
今度、前田三桂氏の提案を納れて
※5本誌の詰將棋欄を二部に分たれましたのは結構な事で是に依つて世に定評ある詰將棋欄が更に其の特色を倍加した事になりました。名案があればどしどし採用される本誌の宏量を愉快に存じます。
   ×   ×   ×
各將棋雑誌で毎號待ち兼ねて見るものには、大崎八段の古人今人の名局、木村八段の香落定跡講義、前田三桂氏の論説、二峯生先生
の圖巧解説などがあります、古人今人の名局は棋譜の解説をしながら人を説き時代を語り感想を叙せられるあたり興味の儘きざるものがあります、棋譜の講評と云へば殆んど無味乾燥なもの許りでありますが、尤も文章の性質上己むを得ない事ではありませうが、あれだけは醍醐味を有して居るやうに存ぜられます、木村八段の香落講義は今更その優秀明快さを云ふだけ野暮でせう、前田三桂氏の論説は毎號何等かの題目を捉え來つて縦横無儘に論議せらるゝ有様は痛快至極です、圖巧解説は微に入り細に亘り欠陥ある局には補修を施し、駒存在の意味を闡明(せんめい)し時には或駒を不要なりと斷定せらるゝなど、痒い所に手の届くやうな御解説振りには全く頭が下がります
今回は是れにて御免を蒙ります
次回には何にか書く積りで居ります
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原文のまま

※1
 1926年6月号で前田三桂が「忌憚なき希望」と題して月報に対する長文の感想や要望を述べていますが、そのなかで「酒井桂史君は、私とは頻繁に文書を往復し、互に討論するのであるが、氏は詰將棋を作る手腕は、専門家も徒跣(はだし)である。詰將棋製作上の注意や苦心談でも聞く事が出來れば、後学を裨益する事少なくはないと思ふ」と書いたことを受けています。


※2
 櫻井蘇月。櫻井三桂と同一人物。1889年生まれ、1945年3月東京大空襲により、訪れていた阿部主幹と共に犠牲となる。

※3

 この当時の題字
192407

 背景に網がかかっています。この題字は1928年7月まで使用されました。
 8月から
192808_3

 上記の題字は長く続かず、1928年12月から
192812
に変わりました。1932年1月まで。その後も細かく変わります。

※4
 「將棋新誌」は1925年1月創刊、1928年12月号まで48号発行されました。
Photo_3

越智信義『将棋の博物誌』(1995・10三一書房)より

※5
 1926年5月号に月歩の筆名で
「忌憚なき希望」という一文があります。次月には前田三桂による同一の題名の寄稿があるので、これも前田三桂なのでしょう。その中に「初心者の爲に同じく五題位の駒数の少い興味ある詰將棋を掲載されることは強ち無意義のものではなからうと信ずるのである」とあり、これを指しているのだと思われます。

月歩は前田三桂ではなく、岡村月歩という別人でした。福岡県門司市の人。
2016年9月12日記

1926年5月号

192605_8


1926年6月号 第一部、第二部に分かれる

1926062_3 1926061_3

 2題のみ易しいですが、「毎號出題」とあるも10月で終了。以後は初心者向きとは言えず、普通に難しいです。(笑)
 こののち、第三部、第四部、第五部と新設されていった背景には、読者、解答者からの難しすぎるという不満があったのではないかと思います。

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