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2016年3月 4日 (金)

『闘魚』再録版 その23

(承前)

第五章

 詰將棋研究の主力が作品を創作すると云ふことに注がるべきであることは既に強調しておいたところが、然らば一體詰將棋とはどうして作るものなのか。始めての方は一寸見當がつかないらしい。そのため、詰將棋を作るなどといふことはとても及びもつかぬ大それた事業であると思ひ込んでゐる人が相當に多い様である。私はかねがねこの事を遺憾に思つてゐたのであるが、恰度この機會に、實際の作例を中心に作圖のコツと云つたやうなものを説明することによつて一人でも多くの讀者諸氏に成る程、これなら俺にだ
て出來さうだと云ふ氣になて戴きたいと念願するのである。尚第四章迄に於て述べた所は何れも作圖の上に絶對に必要な知識ばかりであるから、之だけはどうかしかりと腹の中に入れて置くことが必要である。
 詰將棋作品は手數の長短、駒數の多少によ
て大體長篇作品、中篇作品、短篇作品の三つに分けられる。私の考では手數と駒數との和が30以下のものを短篇、それ以上60までを中篇、60以上を長篇と看做すのが大體妥當ではないかと思てゐるが、それはとも角として、此等三種の作品は夫々獨得の持味を有つてゐて何れがよいと云ふことは一概に云へないのであるが、始めての者は先づ短篇から入るのが本道であるから、茲では短篇作品の作例を擧げるに止めた。併し之は決して長篇や中篇を作ることが不必要であると云ふことを意味するのではないのであて、かくして短篇の創作に習熟した人は必ず中篇や長篇にまで手を染めて貰ひたいのである。殊に短篇作品に於ける類型が喧しく云々されてゐる現今では、中篇や長篇の分野こそ吾々が將來大いに開拓すべき舞臺であるのだから。
 詰將棋を作るには先づその素材となるべきものがなければならない。然らば此の素材は如何にして選定さるべきものであるかと云ふところから叙述を進めよう。
 凡そ圖法には大體二種ある。その一は筋から形を造
てゆく方法であり、その二は形から筋を造てゆく方法である。第一の筋から形を造てゆくとはどう云ふことかと云ふに實戰に出て來た手筋だとか又は頭の中で考へた手筋を基として、一定の形に駒を配置してゆくことであて、第二の形から筋を造てゆくとは、最初好い加減に面白さうな形に駒を並べて見て、扨てそれから面白い手筋を生み出してゆかうとすることである。此の第二の方法は私も創作のときなどよく用ひて成功したことがあるが、之ははじめから偶然に頼る點に於て又相當作圖の経驗を必要とする點に於て、始めての方にはもとより不適當である。かくて第一の方法即ち筋から形を造てゆくと云ふ方法が最も普遍的な方法であると云ふことになるのであるが、之にはその素材たるべき手筋を實戰に求める場合と然らざる場合即ち自らの思ひつきその他による場合とがある。而して始めての方にとては實戰から素材を得る方法によるのが最も自然であると考へられるので、私は第一例として先づ此の方法による場合を擧げることにした。

(作圖例・一)

(第一圖)

1

 實戰に於て第一圖の様な局面が現はれた。之は22銀、12玉、13香、同桂、11銀成、同玉、21と、12玉、22と迄で詰む(
)のだが、こんな手は別段いゝ手と云ふ程のものではない。至極當然な手であるが、この様な平凡な手筋でも之をうまく活かせば立派に詰將棋の素材たり得るのである。だから詰將棋を作ろうとする者は何も何十局、何百局に一度しか出て來ない様な妙手を待つ必要はないのであて、詰將棋の素材は随所に轉がてゐるのだと云ふことを知らねばならぬ。扨て圖面であるが、先づ一見して不必要な駒を取去て了ふと第二圖の如くなる。

11銀成などとせず、21銀生まで。

(第二圖)

2

 此の手筋に何か參考とすべきものがありとせば、それは13香、同桂とさせて王の脱出路を塞いでおいて11銀成とする點である。而して11銀で香を取
てゐるが此の香は最後まで結局不要であるから、11香はなくてもよい事になる。而も此の方が銀と香との交換でなく、たゞで銀を渡すと云ふ點でより面白いわけである。かくして11香を取除いたは同じく駒の犠牲であても銀と角ではその値打に差がある。そこで銀の持駒の代りに角を置いてみる。併し之では22角、12王のとき13香とせず11角成、同玉、13香以下詰んで了ふ。この餘詰を消すのは簡單であて、持駒の香を歩にすればよいのである。かくして第三圖が出來上る。

(第三圖)

3

 これでどうやら詰將棋らしいものが出來たが、併し之では如何にも容易であ
て、未だ手筋の域を脱してゐない。それに王方14歩と攻方25歩とは單に王の脱出を阻止するだけの駒であて、詰將棋に於て極力忌まれてゐるところの所謂働きのない駒である。之を何とか取除く工夫はないものかといふことから考へを進めると、此等の駒が必要なのは王が13に居るからであると云ふことに氣付く。何も王は必ず13に置かねばならぬと云ふことはないのだから、之を11に持て來てはどうか。さうすれば14歩も25歩も要らなくなるのではないか。ここに又新しい世界が開けてくる。之が第四圖である。

(第四圖)

4

 先づ餘詰の檢討から始めると圖面で21とで桂をと
ては12王で見込なし、又22以外の所へ角を打てば33で止まて了ふ。之で餘詰のないことも分たし、又14歩や25歩がないだけ前圖とは格段の相違である。併し乍ら之でも未だ手筋の範疇を出でない。詰將棋と云ふためにはたゞ一つの手筋を含んでゐるだけでは不十分であて少くとも二つの手筋を取入れたものでなければならない。それにはこのまゝで、詰んで了ては仕方がない。何とか詰まない局面に變へる必要がある。此の様な時には盤面に於ける駒の位置を變へるよりも、先づ持駒を變へてみるのが賢明な方法である。ところが持駒の中で角は眼目の駒であるからそのまゝとして、歩を他の駒に代へてみてはどうか。香、銀、金、飛車など何れも落第で、結局桂と角とが入選する。此の局面が角と桂一枚では詰まないことは一見して明瞭であるが、角二枚なら何とかなりさうな氣がする。勿論最初22角と打て了つては駄目だが、22角としないで44角と遠角を打て33に合をさせて他の駒を交換する手がある。これは面白さうだぞ、もし遠角打の手筋を取入れることが出來ればしめたものだ。何とかこの遠角で詰ませる様に工夫して見よう。前にも詰む局面をわざわざ詰まない局面に直したのだが今度は詰まない局面を何とかして詰むやうな局面にしなければならない。此の様に詰む様にしたり詰まない様にしたりし乍らだんだんと作品の綾を多くしてゆくのが作圖のコツである。念のため第四圖の持駒の歩を角に代へた局面を第五圖として掲げておかう。

(第五圖)

5

 圖面に於て44角と打
た場合の王方の合駒が問題であるが、角は二枚使てあるから駄目として、飛、金、銀、香等では一遍に詰んで了ふことは直ちに分る。そこで桂か歩といふことになるが、先づ歩の場合を考へてみよう。44角、33歩、同角成、同桂、22角、12玉、こゝで13歩では打歩詰になて了ふのである。そして之は詰將棋らしくて面白い筋であて、之を消すのは何の造作もない。何か王方の駒を13へ利かしておいて13歩の時之をとれる様にすればよい。それも本手順に關係するやうでは困る。それには14へ金でも置くことである。これで33歩と合をされた場合は同角成、同桂、22角、12王、13歩、同金、11角成、同王、21と、12王、22とで詰むことになり、此の邊の所で大體作品を完成したいのだがまだ難關が殘されてゐる。それは33桂の合である。桂を合駒されては何としても詰まぬ。之を消すためには吾々は茲で傳家の寳刀を抜かねばならぬ。それは殘り駒から桂といふ駒を取り去て了つて、桂の合駒をされないことである。併しそれだからと云て、例へば第六圖の様なことをしては臺無しである。

(第六圖)

6

 之は第四章でも述べた様に最も拙劣なやり方である。吾々は茲で桂は成れば金になると云ふことを想ひ出さねばならない。そして盤面には14、32、31と云ふ風に恰度お誂へ向きに金が三つ使
てあるから事柄は頗る簡單である。即ち此等の金をどれも成桂にすればいゝ。之は詰將棋に於ける成駒の使用法の一例であて、まだ此の外にも重要な成駒の使ひ方があるのであるが、今回は紙數の關係上割愛しなければならない。かくて第七圖が出來る。

(第七圖)

7

 之で漸く一應詰將棋が出來上つた。44角と云ふ遠打の手筋と13に駒を打捨てる事によつて王の脱出路を閉塞してから、11角と成り捨てると云ふ手筋がその中に含まれてゐる。而して後者は作圖の素材たる手筋であり前者は作圖の途中に於て派生した手筋であるから、前者を素材手筋、後者を派生手筋と呼ぶことが出來やう。(
)さて愈々最後の仕上げであるが、その方法として最後の手を延ばす方法がある。即ち王を最初から11に置かないで、最初は12に置き、11飛、同王と取らせるのである。之が第八圖である。

原文通りだが、前者、後者が入れ替わっている。

(第八圖・完成圖)

8

 このため飛車といふ駒が新に登場することになり、作品としてもかなり面白くなつて來た。次に吾々が最も神経質になつて警戒しなければならないところの餘詰の檢討をしてみる。殊に飛車と云ふ有力な駒が手に入つたのだから之は念入りでなければならぬ。11飛として取らせてから餘詰についても勿論念の為調べる必要があるが、その結果作圖中説明した様に餘詰の餘地のないことが明になる。然らば最初11飛とせずに、22飛では如何と云ふと、22飛、13王、35角、24成桂の結果は結局詰まない。その他に注意すべき手として最初22成桂と捨てる手がある。もし之に對し13王とでも逃げやうものなら35角、24成桂、12飛でそれこそお陀佛である。そこで之は同王と取らねばならない。そして32飛の時13王と上れば35角は24成桂、22角は24王以下如何にしても詰まない。22成桂の手は一寸心胆を寒からしめたが、之でやれやれ。さあ愈々完成した。詰手順を示すと、11飛、同王、44角、33歩、同角成、同桂、22角、12王、13歩、同成桂、11角成、同王、21成桂、12王、22成桂迄15手である。實戰に出て來たあんな平凡な手筋がとに角一つの詰將棋をこしらへさせたのである。どうです。作圖つて案外易しいもんでせう。
 序に此の作品の缺點を擧げておかう。それは成桂の存在が如何にも態とらしくて目障りである事である。その上これでは「ははあ此の將棋は合駒を用ひるのだな」と云ふ風に直ちに看破られて了ふ惧がある。尚11飛、同王、44角と打つた場合、33香合が歩合と同手數であるかも知れぬと云ふ心配がある。もし歩合でも香合でも同じことであればそれ丈作品の價値は減少せざるを得ない。(第四章減價事項、王方の多様手順に相當する)併し幸なことに香合では同角成、同桂のとき13香と云ふ手があつて早く詰んで了ふ。即ち13香、同成桂、21成桂、12王、22成桂迄であつて、之だと最初から勘定しても11手であつて本手順の15手には遠く及ばない。だから此の點は大丈夫である。尚、44角は55角でも66角でも或は99角でも差支へないわけであるから之も攻方の多様手順ではないかと心配する向もあるかも知れないが、之は全然同じ意味のものであるから差支へないのであつて、解答としてはやはり44角と最も近く打つのが穏當であらう。
 此の詰將棋はもとより佳作とは云へないが併し一應まとまつてゐる點に於て始めての方が此の程度のものを作りこなせるやうになれば先づ一通りの作圖家になつたと云えよう。

(將棋世界1940/09里見義周「詰將棋とは何か」より。つづく)
 第八圖は『闘魚』第14番の初形から8手経過した図ですが、余詰があります。


第43番

2723

29金、同玉、27龍、39玉、37龍、38飛、48銀、29玉、38龍、同玉、
18飛、28歩、39金、27玉、28飛、36玉、38飛、26玉、27歩、同玉、
28金、26玉、17金、15玉、16金、14玉、15金、23玉、14金、22玉、
13金、同金、同香成、同玉、33飛成、14玉、26桂、15玉、13龍、26玉、
37金、35玉、33龍、34桂、36歩、同金、44銀生、45玉、36金、同玉、
37金、45玉、46金、同桂、35龍、54玉、55龍、63玉、53龍、72玉、
84桂、61玉、71と、同玉、73龍、61玉、72桂成、52玉、62成桂、41玉、
43龍、42歩、52成桂
まで73手詰
(將棋朗作選第45番)

鶴田諸兄解説
「むつかしい変化は殆んどない。遠慮なく言って、さしたる趣向も認められず、良く言えば長丁場が無難にまとめられている、悪く言えばただ長いだけ、と意見が二つに分れそう」



第44番

44 43

94馬、82玉、93馬、同玉、94飛、82玉、91飛成、72玉、71龍、63玉、
62龍、74玉、65龍、84玉、85龍、93玉、94龍、82玉、91龍、72玉、
54角、同銀、62と、同玉、61龍、53玉、54歩、同玉、65銀、55玉、
64龍、66玉、76銀、77玉、67龍、86玉、87香、95玉、65龍、94玉、
85龍、93玉、84龍、82玉、71桂成、同玉、73龍、61玉、62歩、51玉、
53龍、52飛、43桂生、41玉、31桂成、同玉、33龍、21玉、32銀、同飛、
同龍、同玉、52飛、31玉、42飛成、21玉、12歩成、同歩、22歩、11玉、
31龍
まで71手詰
(將棋朗作選改)

 本局も長いだけで妙味に乏しいです。
 朗作選の図にも先行作あり。月報1935/06、義舜名義。持駒の飛が無く、攻方85龍になっていました。


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