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2015年1月16日 (金)

田中鵬看著『詰将棋集』 その9

 本局を一見して、諸賢はまず奇異の感に打たれたことだろう。盤上に王様一人ぼつち、四方八方皆敵駒だ。正に一匹狼である。
 此の「全駒使用無防備玉」は創作至難説が濃厚だつたもので、"煙詰"が"希少価値"の王座を失つた現在、此の「全駒使用無防備玉」あたりが、人智で創作できる範囲の最も困難な部類に入るのではないか?未だ未開で創作の可能性ある困難な"条件作"は二三あるが、筆者は秘かにその開拓を企てている。
 本局は筆者の身の上に起こつた事柄を詩い上げた抒情作品である。私は或る人に恋をした。年令の相違はどうしようもなく、悶悶の日を送り遂に破局。私は地平の果てにただ一人佇んでいるような寂漠たる心境に陥り、第一作「ひとり旅」を完成。本作もその余韻を詩つたもので「恋路」と命名。一人だけ寂しく彷徨する恋の路は他ならぬ片想いを表現しているわけ。筆者の涙の結晶で生まれた珍品なのだ。

全駒使用無防備玉「恋路」

近代将棋 昭和四十三年四月号に発表
塚田賞受賞

50694120

86金、同玉、77金、96玉、95馬、同玉、94と、96玉、95と、同玉(第一図)

(第一図は95同玉まで)

15jan11a

※入玉阻止
"無防備玉"玉に味方がなく無防備状態からきた名称である。初手を95馬では87玉と潜られてつかまらぬ。86金から77金でまず入玉を阻止する。95馬~94と~95とと捌いて74飛に自由を与えよう。

第一図以下…94飛、同玉、93桂成、95玉、85と、同玉、76銀行、95玉(第二図)

(第二図は95玉まで)

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※ひとり旅
94飛と長打の威力で96玉を許さない。同玉に93桂成は絶対手。95玉の逃げも必然の一手で、85とと寄つて76銀行が本筋。76銀引では詰まない。頼る味方の一人もなく寂しい玉の"ひとり旅"である。

第二図以下…94成桂、同玉、84と、同玉、75銀右、94玉、85銀、同玉、86金(第三図)

(第三図は86金まで)

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※"軽趣向"
94成桂、同玉、884とに95玉は、85と、96玉、87金で詰み。同玉に75銀右と繰り出す。94玉に85銀と軽く捨てて86金と進撃。ここらあたりの手順は"と金"と金銀で奏でる軽い"趣向"といえる。

第三図以下…94玉、93と、同玉、83と、同玉、74銀右、93玉、84銀、同玉、85金(第四図)

(第四図は85金まで)

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※"趣向"に酔う
94玉に93と~83とと引いて軽やかに局面は移り変わつて行く。74銀右から84銀と美しい銀の調べに諸賢を夢の桃源郷に誘う。85金と迫る。金銀協力しての攻撃作戦だ。玉はジリジリ後退の一途を辿る。

第四図以下…93玉、83銀成、同玉、73と、同玉、63歩成、83玉、73と、同玉(第五図)

(第五図は73同玉まで)

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※軽妙なサバキ
93玉に83銀成で銀は消えてしまつた。同玉に73とと思い"と金"を捌く。63歩成に83玉は必至。73とと軽快に押しやつて、中央の"と金"の運用を図る。89桂がなければ"煙詰"と思われる程のサバキだ。

第五図以下…64と行、83玉、74と、72玉、63と右、61玉、51桂成、同玉、41歩成(第六図)

(第六図は41歩成まで)

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※"と金"の活躍
64と行が正しい。83玉と逃げて手をかせぐのが本筋。74とから63と右は必然手。61玉と急転直下追い落された。51桂成、同玉に41歩成と裸の王様を追い回す。一匹狼だがなかなか音を上げない。

第六図以下…61玉、51と、同玉、42と、同玉、32香成、51玉、42成香、同玉、23香成(第七図)

(第七図は23香成まで)

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※15角の射程を生かす
61玉の逃げに51とと押売りして、42とには同玉の一手。32香成、同玉では23香成で本筋に入るが二手早詰になる。51玉の逃げが正解。42成香で23香成は61玉で詰まぬ。42成香~23香成が本手。

第七図以下…41玉、32成香、同玉、33歩成、31玉、21香成、同玉、11香成、同玉(第八図)

(第八図は11同玉まで)

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※三枚香の犠牲
41玉の逃げは正しく、31玉では21香成と先にやつても本筋に入ることができる。32成香と軽く捨て33歩成。31玉に21香成~11香成に31玉は、42と、22玉、12歩成、23玉、24との早詰。

第八図以下…12歩成、同玉、24角、21玉、12飛成、同玉、13角成、同玉、24と、同玉(第九図)

(第九図は24同玉まで)

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※豪快大駒捨て
12歩成から24角の"アキ王手"は必至。21玉に12飛成、同玉に13角成の連続大駒捨ては、本局の収束をピリッと引き締めたものにしてある。24ととスリ込む。12玉なら押して行くまで。同玉で終局近しを感ずる。

第九図以下…34と行、14玉、25銀、15玉、26金、同玉、27金、15玉、16金(詰上り図)まで九十三手詰

(詰上り図は16金まで)

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※恋は終りぬ
34と行に13玉は23とで早い。14玉に25銀、15玉に26金と捨て、27金~16金とスリ上がつて終局を迎える。一枚の無駄駒もなく、見事なサバキは芸術品の香りさえしよう。


私は或る人に恋をした。
まったくどうでもいいことだが、入院中に看護師さんに恋したらしい。

つづく

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