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2015年1月17日 (土)

田中鵬看著『詰将棋集』 その10

 最終局は「双玉還元玉煙詰」という前人未踏の異色の作品でお楽しみを願おう。
 双玉とは王様を二枚使用したもので、詰将棋の本質からいえば邪道の感なきにしもあらずだが、「煙詰」の定義が最多の駒から最少の駒にあるので、あえて最高の駒数四十枚使用の「双玉煙詰」を創作してみたわけ。筆者の「双玉煙詰」の第三号局であるが、内容が豊富なところから本局を選んでみた。作品は全体的に淡泊で手順は安易の域をでないが、逆王手の採り入れ、還元玉、受方桂不成、大駒の合駒、と盛沢山の趣向を凝らしてある。ユリカゴより墓場まで有為転変、死苦はつきものだが49より出でて49で詰む。百十九手の長道中は人生街道にさも似通つていよう。
 双玉を邪道とみないなら、本局は詰将棋史上屈指の大傑作に仲間入りできるであろう。

双玉還元玉煙詰「人生」

詰将棋パラダイス 昭和三十七年十月号に発表

Para61651357

48金、59玉、49金、同玉、38銀、58玉、47角、57玉、59龍、66玉、77と、同桂不成(第一図)

(第一図は77同桂不成まで)

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※奇手77桂不成
48金~49金は29龍を世に出す手段。38銀の"両王手"に58玉は当然の逃げ、ここで49龍は57玉、47龍、68玉で失敗。47角~59龍~77とは必然手。77とに同桂不成が鬼手。成ればどうなるか?

第一図以下…87同銀、同と、67歩、同玉、58龍、66玉、78桂、同と、76と、同玉、78龍、86玉(第二図)

(第二図は86玉まで)

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※龍の追撃
第一図の77同桂不成のところで同桂成では67歩、同と、同銀、同玉、58龍、66玉、ここで67歩と打てるので同成桂、76とで早詰。77銀~67歩~58龍~78桂は手順の攻め。76と~78龍に86玉が本筋。

第二図以下…77龍、85玉、75と、94玉、85と、同玉、74角、94玉、95歩、84玉、75龍、93玉(第三図)

(第三図は93玉まで)

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※昇竜
77龍と一歩近づく。85玉に75と~85とは邪魔駒消去で、74角と跳躍活用を図る。94玉が最善の逃げで、95歩に84玉、75龍に93玉と、スルリスルリと巧妙に体をかわす。

第三図以下…94歩、同玉、85龍、93玉、83角成、同成桂、94歩、同成桂、92と、同玉、94龍、82玉(第四図)

(第四図は82玉まで)

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※角を犠牲に龍の追撃
94歩は取らざるを得まい。85龍と迫り93玉に83角成と犠牲に供する。同成桂に94歩と打ち、92とと捨てて94龍と進撃。93合駒は84桂~81とがあり簡単。82玉の逃げは当然。

第四図以下…81と、同玉、71歩成、同金、同香成、同玉、74龍、72角、62金、同金、同と、同玉(第五図)

(第五図は62同玉まで)

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※"逆王手"に注意
81とと軽く捌いて71歩成、同金に83龍と突つ込んでは、82角合の"逆王手"でアツといつても後の祭りだ。71香成~74龍と追撃。72角の大駒合は、"煙詰"では他に例が一局あるだけ。62金と打つてキレイに精算する。

第五図以下…61金、同角、同桂成、同玉、53桂、同角、43角、51玉、52角成、同玉、53歩成、同玉(第六図)

(第六図は53同玉まで)

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※一連の軽手
61金でもう一度キレイに駒交換をする。53桂が軽手で逃げはいずれも早詰。同角に43角~52角成が軽手。53角を奪取したところでは向かつて左半面はキレイに消滅して、主役の龍以外の駒は見当たらぬ。

第六図以下…35角、42玉、43と、同玉、44龍、52玉、53龍、41玉、31と、同玉、22と、同玉(第七図)

(第七図は22同玉まで)

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※龍角一体の攻撃
85角と一コマ離して打たねば効果はない。42玉に43ととくれてやり44龍、52玉、53龍は必然の追い手順。41玉に31とと軽く捨てて22とで銀を入手。龍追い回されていよいよ終盤を迎える。

第七図以下…33銀、21玉、51龍、12玉、42龍、13玉、24角、同香、22龍、14玉、24銀成、同飛(第八図)

(第八図は24同飛まで)

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※難解な変化
83銀と打ち51龍~42龍に13玉は必然手の連続だが、次の24角に対する同飛の変化が難解だが解説のスペースがない。御研究願いたい。24銀成、同飛のところ15歩、同玉、24銀不成の手順前後は小キズだ。

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引用者注記
24角に対して同飛は同銀成、同玉、25飛、34玉、45龍、33玉、35飛、22玉、42龍、13玉、25桂、24玉、44龍、15玉、16歩、同玉、27銀左、15玉、26銀、16玉、17銀直まで113手。
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第八図以下…15歩、同玉、16香、同玉、27銀左、同成香、同銀、17玉、18香、同金、同銀、同玉(第九図)

(第九図は18同玉まで)

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※"逆王手"
15歩~16香と玉を誘う。王と玉との対決だ。27銀左に同成香は"逆王手"だが同銀ですぐはずせる。17玉に18香と打ち金を入手する。盤上二枚飛と二枚玉の対抗で面白い形だが、収束は目前にある。

第九図以下…28金、19玉、
29金、同飛成、同龍、同玉、23飛、39玉、28飛成、49玉、48龍(詰上り図)まで百十九手詰

(詰上り図は48龍まで)

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※人生の終末
28金、19玉、29金、同飛成、同龍、同玉で王様二枚だけとは寂しい。23飛と打ち28飛成と帰つて48龍までにて大団円となる。49(死苦)に始まり49(死苦)に終わる。人生観の象徴というべきか。

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「近代将棋」1987年3月

鵬看の詰将棋エッセー
煙詰は誰でも作れるのか

田中鵬看

 詰将棋。何という素晴らしい芸術的代物であろう。私が昭和三十五年、煙詰四局を引っさげて本誌へデビュー。超人よ大天才よと、詰棋界を騒がせて二十七、八年になる。今では煙は誰でも創作出きると言う御仁まで出てきた。今は平凡なる煙は通じないのである。しかし一流作家で、煙を一局すら創作していない方は、無数にいる。
 「煙は誰でも作れる」この一語に私は立腹した。私は煙しか創作出きない力量しか持っていないように聞こえたからである。本誌が十八才の折、私は全駒無防備玉を二局創作した。兄の"ひとり旅"で、テレビ(読売)の11PMに内藤九段と出演した。もちろん新聞週刊誌にも書き立てられた。弟の"恋路"は玉の逃げなどの別れもなく、すべて限定手でまとめ、と金は五段目までに押さえた。創作時間はわずか10時間。そんな芸当が出来る作家が、当時はいたであろうか? その後、本誌二十才の折、種々の歩なし図式を連載した。
 話はさかのぼり、黒川一郎氏が趣向を入れた煙を創作すれば、私は都玉、還元玉、双玉等、種々のおもむきを変えた煙を連発した。新聞にでかでか書き立てられ、毎日新聞の本欄には、十号、十一号と煙が出きるたびに掲載された。まるで台風のように…。三年半前に死亡した父は、友人知人にあれは(煙のこと)いくらくらいの金になるのかと聞かれ、一銭にもならぬと答えた。友人は、なァんだ金にはならんのかと、馬鹿にされたとの事。
 以来私は煙創作を止めた。父がいとおしくてならなかったのである。私も病苦と闘いながら創作してたので、ことさら詰棋創作から遠ざかったのである。しかし私は死火山ではなく、時々噴火した。まるで三原山のように…。詰棋と、マラソンと、重量挙げ、は苦しいばかりで金にはならないのであった。しかしマラソンは金になるようになったのである。イギリスのマラソンで優勝した瀬古は900万の賞金をせしめたのである。億万長者で詰棋が大好き、そんなスポンサーがなあと、幾度思った事か。
 話は一転、1519手詰の超長手数詰を創作した、橋本孝治という天才が出現したのだ。二年も三年もかけて大作を作る人は多い。これは天才とはいえない。ごく短期間で、各れ一人の力で奇抜な作品を創作出きる人が天才である。又、煙に戻るが、小生の五局目、雲龍は三時間で完成した。誰も信用しないであろうが事実である。遠角を入れるのに入れるのに三日かかった。結局余詰があったが、数秒で修正した。私の難点は、自陣の小駒成駒が多かったことである。それで自陣の小駒成駒のない"完全周辺めぐり還元玉煙詰"を温存していたが、七條兼三氏に先を越された。コロンブスの卵ではないが、早い者勝ち。しかし私はそれに異存がある。なぜか後から生まれた人は損をするからである。又、今だに看寿看寿というが、昭和の詰棋は最早看寿を完全に抜いている。第二期黄金時代であるが、まだ歯が抜けている。或る人から黒川氏と私のいない詰棋はアクビが出ると便りがあった。黒川氏は私が尊敬する方であるがもう引退すると言うような便りがあったのである。
 東の豪腕、駒場和男氏、西に怪物田中鵬看がいることをお忘れなく。若い人は私を知らぬ人が沢山いると思う。私は病弱でなければ棋士になっていたと思う。もし私が棋士になっていたら、詰棋界も大きく変っている事だろう。
 超長手数詰について又少し語ろう。私は超長手数詰にはあまりというより全く手を染めなかった。なぜなら命を賭けて創作した新扇詰(873手詰)の奥薗氏。そっとしてあげておきたかったからである。そこへ山本昭一氏の"メタ新世界"(941手詰)私は改作して1000手超えを狙ったが、991手で失敗。そこへ1519手詰。実は私の取っておきの素材だったのです。馬鋸を使用しなければと数年前より考えていた。慢性気管支炎で半年棒に振ったばかりに先を越された。作品は実にうまく仕込まれている。これを破れるか? 新人類は何を考えるかわからない。今だに私のカムバックを希望しすすめる人が多数いる。持病を三つも四つも持っている私には大作を作る事は苦痛この上ない。しかしもう一花も二花も咲かす所存である。黒川流と一寸変った趣向詰(あまり疲れない)を主に創作する気。とにかく敵は誰でもなく、病が最大の難敵なのである。
 何かとごちゃごちゃ書いたが、詰棋の諸君の頑張りを願う。大いに奇作大作傑作を創作し暴れんことを。

 戯作二題

 たわむれに創作した作品。歩18枚と香4枚の無防備玉、還暦61才の人に捧げる。特に京都府(香と歩)の人に捧げる。洒落である。還元玉でもある。歩と、と金と、成香で追う趣向は看寿の作にあるのは承知であるが、序の趣向と組合わせてあるので新趣向である。小生はかに座。玉が横に這うので、表題は「かに」にした。かにの漢字が見えない、天眼鏡で見ても。困ったものである。

 これもたわむれ作品。変化、紛れは香歩問題と同様、安易なので省略する。表題はどなたか、つけて下さい。



86990349


86990350
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引用者注記

おかしなところもあるが、すべて原文のまま。

は61手詰。
は47手詰。

このあと作者は曲詰を
6局発表しただけです。


おわり

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