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2013年11月29日 (金)

完本『詰将棋 トライアスロン』その41

1993年4月号
図巧第36番

 号外々々といった感じ。大ニュースといった感じ。詰パラ最新号に門脇芳雄氏の手で次の如し。
「先月号に最近のコンピュータの詰将棋解図力を紹介した。目覚ましい解図力の進歩に驚かれた方が多いと思う。今月はその続編で、もっと驚くニュースを紹介しよう。
 それはコンピュータが数多くの古図式を解き、しかも『図巧』や『無双』にまで従来知られていなかった余詰や早詰を発見したのである。
 これらの不完全作を発見したのは、前号でご紹介したNTTソフトウェア研究所伊藤琢巳氏のプログラム(以下本稿では『伊藤』と略称する)と電気通信大学の野下浩平教授のプログラム(以下『野下』と略称する)である。
 両プログラムは先月の発表でも判る通り驚異的な性能を持っている。

【A図】
41a

 A図は名作の名の高い『将棋図巧』第36番である。本題は13手と短いが非常に巧妙な作品で、私は看寿の代表作の一つとさえ考えている作品である。これに『伊藤』は次の様に強引な余詰を発見した。
 A図の作意
25金、同角、
36銀、同角、25金、同角、36飛、同銀成、47桂、同成銀、
26金、44玉、33角成まで13手
『伊藤』が発見した余詰
3手目
36銀の手で25同飛、同金、17角、26歩合、47桂、同と、26角引、46玉、35角、同金、同角、同玉、36金、24玉、25金打、23玉、13金まで19手
 実はこの問題はコンピュータの実力を試すために私が設問した17題の内の一つである。『伊藤』は本問を僅か15秒で解いた。ところが正解と解答が違う。私は『コンピュータの奴、間違えたな』と思った。所が調べてみて、この手順が『余詰』と判り、びっくりした。」
 以下無双31番などなど大量15本の横槍である。何とも唖然とする結果ではある。
「なお『図巧』36番の早詰だが、置駒を追加して17角打を消したり5筋方面を詰まなくしたりするのなら修正は簡単だが、それではこの名作が泣くだろう。修正と言っても、完全ならそれで良いと言うものではない。駒を追加せぬ軽い変更で余詰を消すうまい修正案はないだろうか。」
 まったくその通りなのだが、A図が既に泣いているのではないだろうか。
 かつて私は次のように述べたことがある。
「看寿は36才のときに八段、ようやく作品献上の運び。翌年『図巧』献上。その献上の間際、彼はいやあわてたのなんの。
 看寿はかねて用意の『図巧』を1番から100番まで検討したに違いない。そういうものなのである。『図巧』は不完全率約一割である。ということは、そのときの再検討でもかなり不完全作が出たはずである。その修正で、もう一汗も二汗もかいたにちがいない。もっと早く精検しておけばよかったと後悔しながら。」
 冗談半分真面目半分だったが、必ずしもあり得ない話ではないよね。図巧36番もそのときの不完全作の一つだったのではないか。それというのも、急場凌ぎの修正図イコールA図といった感じなのでね。
 A図を一見して思えらく、三枚の駒が泣いていると。その一は玉方54飛である。これは横利きで34金打、24角打を防ぎ、縦利きで56金打を防ぐ。その二は詰方34歩である。これは34金打の防ぎであろう。その三は玉方32桂である。これは24角打の防ぎであろう。駒は何よりも“重複”を嫌う。泣いているのではないかと思うわけである。
 看寿らしからぬ修正というしかないのだが、すると、やはり時間の余裕がなかった、つまり献上間際の修正だったのだろうか。
 図巧36番の原図はB図だったのではないか。

【B図】
41b

 B図から

36銀は、同銀不成、47桂、同と、45金、同銀、46金、同と、25金、同金、同飛、同玉、26金、14玉、25角、23玉、33角成、12玉で不詰
47桂の所25金は、同金、同飛、同銀、13角、24歩合以下不詰

47桂は同角成、44銀打、同飛、同銀、同玉(参考図)
同飛の所同銀なら34金までだが。

 【参考図】
41

 参考図から
①33角成、②33銀不成、③46飛など、いろいろ考えられるが、けっきょく47馬の利きが強くて不詰。
 ところが……。
 B図から
34金、同飛、36銀、
同銀不成、47桂、同と、36飛、同玉、45角、46玉、56金、35玉、36金、44玉、65銀、43玉、34角以下
同銀成なら、47桂、同成銀、36金、44玉、45金打、43玉、61角、52合、23飛成以下
同銀不成なら、25金、44玉、34金、54玉、72角、64玉、65飛、73玉、51角成、62歩合、83金、74玉、52馬、63香合、同馬、同歩、76香以下
 余詰である。この34金打以下の余詰は応えたにちがいない。34金打を防ぐための54飛、それが役に立たなかったのだから。
 それにしても詰方34歩・玉方32桂という修正案はいただけませんよ。拙速という言葉が頭をよぎります。玉方54飛の立場も考え、もっと練らなきゃ。
 いやいや、34歩・32桂案の場合は、例えばC図のようにすべきではないかといっているわけです。駒の顔を立てなきゃ。

【C図】
41c

【D図】
41d

 D図はA図から、25金、同角、同飛、同金までの局面。
 D図から
①13角は、24歩合で不詰
②17角は、26歩合で不詰
というのが看寿の読みだったはず。
①のほうは24歩合で確かに不詰だが、②のほうが26桂合以下の継続手を読み落としていたのである。
②の26歩合以下
47桂、同と、26角引、46玉、35角、同金、同角、同玉、36金…
 これは時間差攻撃である。17角と打ち、、26歩合とさせておく。そうしておいて47桂、同と、それから26角引である。間然する所がない見事な連係プレーである。
 それにしてもこの余詰がコンピュータの発見によるものとはね。喜ぶべきか、悲しむべきかどちらなんだろうね。
 さてどう修正するかだが、門脇氏が言われるように泣かせてはいけない。そこで私も考えてみることにした。看寿とは作風を異にするので果たしてどうなるか。
 実をいうと、私はひとの不完全作を修正するのは嫌いではない。修正困難と言われれば言われるほどその気になったりしてね。
 修正のコツ、それはその作品を徹底的に分析すること。すと必ず可能の糸、不可能の糸がほつれ出てくる。可能の糸を手順よくつなぎ合わせれば、まずは出前一丁ということになるだろう。
 分析といっても、A図の場合は短編なのでそれほど手間はかからない。さすがと思ったことが一つ。それは、この構想は35玉配置から得たのではないかということ。だって35玉以外、この構想は表現し得ないのでね。
 E図は、「駒を追加せぬ軽い変更で余詰を消すうまい修正案はないものだろうか」という門脇氏の方針に沿った修正案。私としては心ならずもといったところだけれど。

【E図】
41e

 E図の作意

25金、同角、36銀、同角、25金、同角、36飛、同銀成、47桂、同成銀、
26金、44玉、33角成まで13手

同金なら、同飛、同玉、26金、14玉、13金まで
同銀不成なら、同飛、同角、26金、44玉、33角成まで
同金なら、同飛、同玉、26金、14玉、13金まで
同銀不成なら、26金、44玉、33角成まで
36銀は、同銀不成、47桂、同と、36飛、同玉、45角、46玉、56金、同飛で不詰
47桂の所25金は、同金、同飛、同銀、13角、24歩合以下不詰
36飛の所45金は、同銀、46金、同と、25金、同金、同飛、同玉、26金、14玉、25角、23玉、33角成、12玉、34角、同銀で13歩が打歩詰

25同飛は、同金、17角、26歩合、47桂、同と、26角引、46玉、35角、同歩で不詰
17角の所13角は、24歩合、26金、同金、24角成、同桂で不詰
 A図の「詰方34歩」を「玉方34香」に変更するだけで修正できれば一番いいのだが、それでは紛れAのところで余詰んでしまう。
「玉方34歩」なら打歩詰で逃れられるのだが。というわけで「玉方34歩」とし、「玉方37歩」を「玉方37桂」とした。“軽い変更”というわけにはいかなくなったか。「玉方37桂」は私の好みで、これは香でもいい。
 E図はA図と玉位置・作意・持駒不変である。よくもならなければ、わるくもならない。無難な修正案といったところか。だが、ひとの作品の修正はこの程度が一番いいと私は思っている。よくしても、わるくしてもそのひとの領域を侵す。「触らぬ神にたたりなし」を肝に銘じているわけである。
 とはいうものの、私の好みとしてはC図の感じで修正したかった。
 ところで、コンピュータは解図力はともかく、作図力はまだまだですよ。我々に追い付くのは百万年後であろうと予言しておきます。

-----つづく-----

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