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2013年11月26日 (火)

完本『詰将棋 トライアスロン』その39

1993年2月号
迷宮の王

 「結局、旧制度に戻した為、『該当作なし』が復活して、今後安易に『該当作なし』が続出しそうで、空白だらけの看寿賞になりそうな気がする。
 それにしても折角、とじ込みの投票用紙を作りながら、投票数がたったの20名! 投票率わずか1%では編集長が泣く。これに対し選考委員(実数)が31名とは、このアンバランスは異常だ。こんな事なら委員だけで選んだ方が、手間がかからない。もっとも番付上位5人では永遠に私に縁はないが。20<31と言う事は選考委員すら投票していない。
「盛岡市 千葉肇」(詰パラH4、12より)
 フーン、何だか心細くなっちまうよね。全詰連新体制の初仕事がこれではね。まさか空中分解ということにはならないだろうね。
 それはともかく、今度の看寿賞の受賞作の中では、やはり大橋健司氏作「迷宮の王」が印象的であった。

【迷宮の王】
39

26龍、55玉、46馬、66玉、57馬、55玉(途中1図)
67桂(途中2図)
同と、46馬、66玉、47馬、55玉、46馬、66玉、57馬、55玉、66龍、
45玉、36龍、44玉、45歩、55玉、46馬、66玉、47馬、55玉、44銀(途中3図)
同と、46馬、66玉、57馬、55玉、66龍、45玉、36龍、55玉、46馬、
66玉、45馬まで39手
駒中里穂-45の駒がなくなれば空き王手して詰む。それがチエの輪のカギだ。

【途中1図】
391

 途中1図から、66龍、45玉、36龍、55玉、46馬、66玉、45馬までが作意である。いや、この手順の実現が作意である。
大和敏雄-見えている詰上がりに持っていくまでの複雑な紛れ、変化。
の所66龍は、45玉、36龍、44玉、56桂、43玉、33歩成、52玉、42と、62玉、74桂、72玉、73銀、83玉で不詰
の所43玉なら、33歩成、52玉、42と、62玉、74桂、72玉、73銀、83玉、86龍以下
 紛れ
が持駒桂ゆえ、変化が持駒歩ゆえというのは面白い。桂と歩の違いで全く同じ手順が紛れと変化にわかれてしまうというのがね。それにしても、それが86龍回りによってというのは壮大だよね。
作者-じつに回りくどい方法で45馬を実現させる。
 その45馬を実現させるためのカギは二つ。途中2図の67桂による抜け穴塞ぎと、途中3図の44銀による抜け穴塞ぎである。

【途中2図】
392

 途中2図から
①64玉なら、75馬、63玉、66龍、65歩、85馬、74歩(53玉なら、42銀、62玉、63銀、71玉、75龍、81玉、72銀成、91玉、82成銀、同玉、94桂以下)、同馬、53玉、42銀、62玉、73馬、同玉、75龍、82玉、94桂、81玉、84龍以下
②45玉なら、36銀、34玉(44玉なら、35馬、43玉、33歩成、同玉、24龍、42玉、43歩以下)24龍、43玉、55桂、同と、53と、同玉、75馬、62玉、73銀、同玉、74龍以下

【途中3図】
393

 64玉なら、74馬まで
 途中2図にはこれからの苦労が感じられるし、途中3図にはこれまでの苦労が感じられる。男もつらいし、女もつらい。
 かくて遂に45馬が実現。
岡本吉司-実に難局。馬と龍のリフレインの間に細かい綾を取り入れ、その都度局面を少しずつ変化させていく様子はまさに変幻自在の駒捌きである。
 空き王手を利用して馬筋を変えるというのはまま見かける。だけどそれのリフレイン、これほどしつこいの、あたしゃ見たことない。玉の動きが、作意では中央を小さく、紛れ・変化ではほぼ全域で大きく、というのも面白く、まさに“迷宮の王”であろう。
護堂浩之-構成は申し分ないが、構想色がないので○にした。
 護堂氏の批評はいつも的確である。構想色がないという見方もあるかもしれない。それは趣向色が濃く出ているからかもしれない。だけど本作が構想物ではないということではないよね。
作者-43香は13手目46龍、64玉、74馬、53玉以下の余詰防止のための苦しい配置だが、他に良い案が見付かりませんでした。
 43香は苦しい配置、ということは気になる配置ということだろうが、だとしたら、あたしゃそれほど気にならないよ。43となどよりよっぽどいい。香は下段という先入主、こういったことにとらわれていると大局を見失うことになるのではないだろうか。
塚越良美-一旦消去した45香をまた45歩とするのが盲点で難解。
 まったくその通り。紛れ・変化の複雑さもさることながら、本作は心理的難解作と呼ぶべきであろう。

 気になる配置といえば、一つだけ気になって仕方がないのがある。あれはS55年、詰パラ7月号に「偏見子細」と題して発表したのがA図。

【A図】
39a

 偽作意
52歩成、同玉、42銀成、同玉、31角、43玉、45香、44桂、同香、34玉、
35飛、24玉、25歩、同桂、同飛、13玉、15飛、14歩、22角成、同玉、
34桂、同歩、52飛、32桂、42香成、13玉、14飛、同玉、15歩、13玉、
14歩、24玉、46角、同金、25歩、33玉、53飛成、22玉、32成香、同玉、
44桂、31玉、43桂、22玉、42龍まで45手
作者「打歩詰回避の42香成と46角を含むなかなかの難解作といった評があるかも? すると、24手目32金合の変化は4手長駒余り。
32金合、同飛成、同玉、43香成、同玉、45飛、53玉、63歩成、同玉、43飛成、
53飛合、74金以下
 さてこそ“偏見子細”かと合点は速断にすぎる。4手長2駒余りは許容範囲だとの。」
 作意
52歩成、同玉、42銀成、同玉、31角、43玉、45香、44桂、同香、34玉、
35飛、24玉、25歩、同桂、同飛、13玉、15飛、14歩、22角成、同玉、
34桂、同歩、52飛、32桂、42香成、
44桂跳、同角、13玉、22角成、同玉、
31成香、33玉、32飛成、44玉、45飛、53玉、62龍、同玉、42飛成、52銀、
74桂、61玉、53桂、同銀、71と、同玉、82桂成、61玉、72成桂まで49手
作者「
13玉は前述の偽作意。手順中、46角のとき同金の所35歩と軽く付き捨てる手は、54飛成、44金合、同龍、同桂、35銀、25玉、15金まで
 紛れ
との微妙な違いに注目あれ。37歩配置は一石何鳥?
14飛は、同玉、15歩、13玉、14歩、24玉、35角、同歩、25歩(54飛成は、34銀合、25歩、33玉、32成香、同玉、34龍、33金合で不詰)、34玉、54飛成、44金合、45銀、25玉で不詰」
鶴田諸兄主幹解説「本局を“実戦型”と呼ぶには異論があるかも知れぬが端に桂香あり、一応その様相は呈している。本局は“実戦型”であるかどうかは別としてかなりの難局には違いない。作者の創作の苦しみが察起因する。せられる。けだし“一収穫”であろう。」
作者「ところで、本作は“実戦型”である。その決定版を狙ったものであることは勿論である。玉方の手駒にまで気を配ったのは確かだが、実は成れの果ての図でもあるのだ。変化、紛れが厄介至極であったことに不完全箇所修正々々と図が変わるごとに構想も段々と縮少。題名の“変幻自在”も遂に変更せざるを得なくなったわけ。よって件の如し。」
 さてA図、あたしゃ愕然! こんな図を発表した覚えはないよ。なんで13桂なのか。これでは実戦型ではないではないか。
 恐らく修正々々で、なにがなんだかわからなくなっていたに違いない。そのとき魔がさしたか。13桂は配置の妙であるかもしれない。配置の妙を常に求めている作者としては、そのとき実戦型であることを忘れ、ついということになったのかもしれない。
 いつか修正しなければならないと思っていた。恥ずかしながらいつか。そのときは今かもしれない。
 かくて修正図。

【修正図】
39a

61金、同玉、51歩成、同玉、52金、同玉、43銀成、同玉、44香、34玉、
35飛、24玉、25飛、13玉、15飛、14歩合、22角成、同玉、34桂、同歩、
52飛、32桂合、42香成、44桂跳、同角、13玉、22角成、同玉、31成香、33玉、
32飛成、44玉、45飛、53玉、62龍、同玉、42飛成、52銀合、74桂、61玉、
53桂、同銀、71と、同玉、82桂成、61玉、72成桂まで47手
 要するに13桂を取り除いただけである。出来としてはA図の方がいいが、実戦型としては修正図でなければならない。
 それにしても情けないことのみ多かりき。若気の至りといった作が多いのは、多分おっちょこちょいだからだろう。
 実をいうと、あたしゃ詰将棋はあまり好きじゃないんです。将棋の方がずっと好きです。だけど将棋は一人では指せない。仕方がないから詰将棋をやっているだけのことなのです。
 もしかしたら宗看も詰将棋はあまり好きではなかったのではないだろうか。そんな気がする。
 そろそろ作品集を出そうか、そんな気になっている昨今だが、いまいち気乗りがしないのは、やはり詰将棋があまり好きではないからではないか。
 詰将棋作家だから詰将棋が好き、そう思われて当たり前だが、必ずしもそうじゃない。私のように将棋好きがいっぱいいますよ。

※ 注記
32金合で不詰

-----つづく-----

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