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2013年11月21日 (木)

完本『詰将棋 トライアスロン』その35

1992年10月号
七種遠打

 「いままで生きてきた中で、いちばん幸せです」(岩崎恭子選手)
 「ずっと前から五輪のマラソンでゴールできたら死んでもいいと思っていました」(有森裕子選手)
 「これを作れて幸せです。これを作ることができたら死んでもいいと思ってました」(詰将棋作家)

 「星陵高校、松井選手への五連続敬遠をめぐって、批判の声が高い。だが果たして、明徳義塾のとった敬遠策は、それほど非難されるべき行為であろうか。
 多くのスポーツにあって、勝利への駆け引きはつきものだが、なかでも野球は、すぐれて偽計にみちた競技ではないだろうか。セーフティーバンドやバスターなどと並んで、敬遠の四球もまた野球ではありふれた作戦の一つである。
 敬遠策とはアウトカウントを得ることなく、無条件で出塁を許すことであり、安打を一本打たれるのに等しいということだ。五連続敬遠の松井選手は、この日、五連続安打したともいえる。これだけのリスクを冒してなお、長打を打たれる確率を考えての決断が敬遠策なのである。
 最終回、松井選手を敬遠して、走者を二人出すことは、一打逆転の危険を負うことであった。この場面でも敬遠策に徹した明徳監督の判断は、賞賛されることはあっても、非難されるべきものではないと思う」(夏田信身58才。朝日新聞より)
 「要するに松井選手一人しか作れなかったということ」(詰将棋作家)

 テレビ将棋では、谷川-浦野戦がよかった。いつもながらの速攻の谷川もよいが、一歩も引かず迎え撃つ浦野もよい。けっきょく激戦を制したのは谷川だが、驚いたのは浦野が受けの手を指さなかったこと。詰将棋作家の良い面と悪い面を見せてくれたような気がして、意義深いいっときであった。

 夏休みが終わって、さて何を書くべきか。折しも蝉が一斉に鳴き出した。時計の針は3時10分を指している。陽射しがようやく弱まってきたのだろうか。ならば私もがんばるじゃん。蝉に負けないようにね。
 ところで、前回は「指定使用駒」について書いた。途中で脱線してしまったけどね。ポピュラーなのは一握り詰だが。全駒使用、歩なし図式、貧乏図式などなど、「指定使用駒」には“体重別競技”の面白さがある。
 あれはS57年、私は一つの「指定使用駒」を作図した。それは「飛2、角2、金4、銀4、桂4、香4、歩9」使用というもの、つまり全駒使用で歩だけ半分の9枚使用というものである。全駒使用や歩なし図式などのように、もしかしたら市民権を得たかったのかもしれぬ。だから続けて二局作図した。一局だけでは偶然の作図と言われかねないのでね。「七種遠打」と「成吉思汗」がそれである。
 まず、「七種遠打」だが、その作図の動機は例によって、「作品でもの申す」ということであった。当時、“遠駒議論”がかまびすしかった。詰将棋パラダイス誌でのやりとりを一、二……。
 「92玉に対する74角の王手を“遠角”と言っておられるが、たった一間しか離れていないのに“遠角”とはおかしい。それでは直接打以外はすべて遠角になる。74角は限定打ではあるが遠角ではないと思う。
 それでは“遠角”とは何間以上はなれたものを言うのかとなれば、別に“規定”はないが、少なく共“遠”という字のニュアンスは大事にしたいと思う。川口市 甲氏」
 「一間だけ離して打った角を“遠角”とはおかしいとの御意見。私はおかしくないと思います。というのは、故谷向奇道氏の名稿『詰将棋解剖学』(旧パラS25・7月号11P)に、『実戦的常識の盲点を衝いて、玉から一間以上離して飛角香を打つ手を遠駒という』と明確に定義しており、その後、この定義に異論があった事を聞きません。私は成駒を作るために飛角香を離し打ちするのは常識手なので、入玉に対する遠打ちの様な場合でも“遠駒”とは呼ばず、反対に一間離して打つ場合でも特殊目的の妙手であれば“遠駒”と呼ぶことにしています。遠い近いの問題でなく、妙手感があるかどうかの質の問題です。“限定打”は遠駒の一種ですが、少しニュアンスが違う(妙手感が弱い)と私は思います。東京都 Z氏
 飛角香の王手には間が一間から七間まである。間が一間では遠打ではないのか。また間が七間でも成るためだけでは遠打ではないのか。これは作品でもの申すしかない。早速作ったのが「七種遠打」(A図)で、本誌S57年7月号に発表。

【A図】
35a

88金引、同桂成、89銀、同桂成、97金、99玉、98金打、同成桂(途中1図)

【途中1図】
35a1

 途中1図までの手順は、実は新手順なのである。手に新手があるように、手順にも新手順がある。この新手順を序奏とし得たことは幸運であった。
 途中1図より、自然な流れとしては次の手順であろう。98金、同玉、89金、97玉、88金、96玉、87金、95玉、86金、94玉、85金、93玉、83銀成、同飛、同飛成、同香(参考図)。

【参考図】
35a_2

 参考図となって、ハタと行き詰まる。このとき71角と打てたなら。そうなのです。それが可能なのです。それには遠大な構想を必要とするけどね。
 途中1図より
11角打、22角合

【途中2図】
35a2

  11角打が構想その一。同飛と取られたら、前述の参考図までの手順で83銀成まで。よって22角合絶対。このとき構想の全貌に気付かれ、膝をポンと打たれたか。
 途中2図より
22角成、同歩、98金、同玉、21角、32角、同角成、同歩、89金、97玉、
31角、42角、同角成、同歩、88金、96玉、41角、52角、同角成、同歩、
87金、95玉、51角、62角、同角成、同歩、86金、94玉、61角、72角、
同角成、同歩、85金、93玉、83銀成、同飛、同飛成、同玉、75桂、92玉、
74角打(途中3図)
同香なら、71角打以下

【途中3図】
35a3

 途中3図より
82玉、83桂成、71玉、72成桂、同玉、64桂、73玉、72飛、64玉、62飛成、
54玉、65角、44玉、64龍、33玉、45桂、23玉、25香、同銀、33桂成、
同歩、35桂、12玉、13歩、同玉、14歩、同銀、24銀、12玉、23銀成、
同銀、同桂成、同玉、28香、同と、14銀、12玉、13歩、11玉、61龍まで91手

54桂合なら、同龍、33玉、45桂、23玉、25香、同銀、35桂、12玉、13歩、同玉、14歩、同銀、24銀、12玉、23銀成、同銀、同桂成、同玉、35桂、13玉、14銀、12玉、23銀成、
同歩、14龍以下(
33桂成、同歩、14銀以下も)97手駒余り
 作者「間が七間から一間までの遠打。99玉に11角が一番遠い遠打であり、93玉に71角が一番近い遠打である……という解釈の<七種遠打>。遠打の種類を距離に求めたわけ。最後の71角は変化イに隠れてしまうが、その代り92玉に74角(途中3図)で、ちゃんと辻褄が合うようになっている。なお、四桂を消去して11玉での詰上りはテーマを際立たせるため。また変化ロは“何合による変長”といったらよいのだろうか。とにかく大きな疵とはいえないと思うので、敢えて消さずにおいてみる。」
  99から93までの玉に対して11から71までの角打。間が七間から一間までの“七種遠打”である。まさに遠大な構想である。この構想を図化するにはどうすればいいか。実は腹案があった。21から71まで横一筋に歩を並べ、角打・角合を繰り返すというものである。果たして成功したかどうか。
  浅山忠夫「27手目41角のところ74角や33手目51角のところ84角の紛れのため、51手目何の変哲もない74角が着手しにくくなっている。収束33桂成の妙手で解後感は爽快。」
  作図中、私は妙なことを考えていた。使用駒指定というわけにはいかないものかとね。歩が半分の9枚、これさえクリアーできれば一つの使用駒指定ということになる。ところが歩は8枚で足りてしまう。飾り駒など絶対に置きたくないしね。さてどうするか。
 どうするもこうするもないんだよね。こういうときって手は決まっている。徹底的に変化調べ、紛れ調べですよ。その結果、余詰なし、不詰なしであっても、構築上の問題とか何とかが出てくるものなのです。完璧な作図なんてめったにあり得ないのでね。
 果たせるかな問題点が一つ。それは余詰だった。原図から31手目96玉の局面がB図。

【B図】
35b

 しめたってなもんですよ。余詰が出てしめたもないけどね。この余詰を防止するには56歩配置でいいわけで、それがA図。かくて歩9枚使用となり、一つの「指定使用駒」誕生ということになったのである。
 その2号局が「成吉思汗」だが、不詰でいま頭を抱えている。この「指定使用駒」の制約は修正するとき、より厳しい。バカなことをしたもんだとの後悔なきにしもあらず。
 しかし、チャレンジですよ。何にでもチャレンジしなきゃ。嫌われたって構わない。むしろ嫌われたほうがいい。“視聴率”を気にしないですむのでね。
 ん? 何かが頭をよぎった。手はあるものである。「成吉思汗」の不詰、もしかしたらこの手で何とかなるかも


※ 注記

54桂合の変化、35桂のところ33桂成、同歩、12銀以下93手駒余りが正しい。

-----つづく-----

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