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2013年11月16日 (土)

完本『詰将棋 トライアスロン』その30

1992年5月号
石兵の陣

 去年の夏、門脇芳雄氏からTEL。「石兵の陣」が余詰、児玉孝一六段指摘とのこと。「エーッ!?」てなもんですよ。プロ棋士の指摘では間違いのあろうはずもない。
 「石兵の陣」(A図)は、

【A図】
30a

67角、78角合、同角、同玉、79歩、同玉、57角、68角合、同角、同玉、
69歩、同玉、47角、58角合、同角、同玉、59歩、同玉、37角、48角合、
同角、同玉、49歩、同玉、27角、38角合、同角、同玉、39歩、同玉、
57角、48角合、49金以下
 という無仕掛で連続角打・角合が主題である。左下の玉を右下へ移し、49金以下収束。ということは、
の所69金以下も49金以下と同様の危険を孕んでいるわけである。左右対称に近い配置なので。
69金、同玉、58銀、同玉、48金、67玉、58金打、76玉、67銀、87玉、78銀、98玉以下大丈V
 しっかり検討したはずであった。それが証拠に二年、四年、六年、八年と何事もなく経過した。ところが九年後の平成三年、いや参った。前述のTELである。
 48金の所49銀(B図)、これが抜けていた。
49銀、67玉、58金、76玉、67銀、87玉、78金、96玉、97歩以下余詰

【B図】
30b

 48金の所48銀が王手なら余詰むことはわかっていた。だが48銀は王手ではない。まさか49銀とはねえ。57角が浮いているので、この手はまさに盲点であった。かつての解図力ナンバーワン奇想天外氏を彷彿させる手であった。
 そのとき「墨酔」は校正完了、印刷の段階であった。一刻も猶予はできない。TELであれこれやりとりである。頭の中の盤上で駒が飛び交った。けっきょく94飛を一段下げることで一決。修正図(C図)は“TEL案”であったわけである。“テレビ将棋”の割に内容がいいといった感じではないだろうか。

【C図】
30c

 ところで、「石兵の陣」の余詰発見者は本当に児玉六段なのだろうか。というのも、去年の詰将棋パラダイス11月号に次のように出ていたからである。
 「私が『石兵の陣』の早詰を発見したのは今年の八月のことでした。ある日、気合を込めて検討したら潰れてしまったものです。(以下略)  松戸市 惣津寧」
 児玉六段については一言半句も触れていない。ということは、「石兵の陣」の余詰発見者は自分だと言っているわけである。
 児玉六段はその一月前、同誌10月号に次のように発表されていた。
 「七条氏の詰将棋『石兵の陣』についてですが、9手目69金、同玉、58銀、同玉、49銀以下詰んでいると思いますが、いかがでしょうか。どこからも指摘がないというのが不思議でなりません。ぜひ御回答を…。気になって仕方がありません。私の勘違いかもしれません。    奈良市  児玉孝一」
 果たしてどちらが発見者なのか。「石兵の陣」に永久について回ることだけに、ゆるがせにするわけにはいかない。黒白を明らかにしてもらいたい。
 ついでに言えば、不完全作を修正することは簡単である。七条社長の不完全作を、私は一晩に二、三局ずつ修正したものである。
 今年の詰研新年会のとき、門脇氏に図巧75番の修正案について訊かれた。そう言えばそんなこともあった。「無双」と「図巧」の不完全作の修正案を「詰棋めいと」に発表していたことがあった。図巧75番も直したはずだけど、どう直したんだっけ?
 門脇氏の「詰むや詰まざるや」には、松井雪山案が紹介されている。
 図巧75番(D図)

【D図】
30d

 作意
57金、同玉、59香、同馬、77飛、同馬、55飛、同馬、58金、56玉、
47馬まで11手
 余詰(奇想天外指摘)

59香の所58金、56玉、57香、同桂、同金、同玉、69桂、同と、77飛、68玉、67飛打、79玉、69馬、89玉、78馬、99玉、69飛、98玉、89馬まで

補正図(松井雪山案)
【補正図】
30d_2

○原図に玉方89銀および99とを加える。これにより前記余詰は解消する。
  門脇氏は松井案ではまだ不満なのではないか。だから私に訊かれたのだと思う。松井案は玉位置・作意・持駒不変ではある。だけど89銀・99とと二枚も置かざるを得ないようでは……。
 89銀は、
 補正図より
 57金、同玉、58金、56玉、57香、同桂、同金、同玉、69桂、同と、77飛、68玉、67飛打、79玉、69馬以下の余詰防止策である。
 99とは、
 補正図より
 57金、同玉、59香、68玉、58馬、77玉、86銀、88玉以下の不詰防止策である。
 ん?  何か変だよね。89銀が余詰防止策というのはわかるけれど、99とが不詰防止策というのはいったいどういうこと?  原図には不詰などなかったよね。
 そうか!  89銀が不詰を招いたのだ。すると松井案は、穴が開いていたのを塞いだけれど、そのために別の穴が開き、その穴をまた塞いだということか。
 何かヤダネー。上策とはいえないと思うし、中策ともいえないと思う。かなり下策に近いんじゃないの。もっとスマートな案はないものか。
 不完全策を修正するとき、私はまず争点はどこかを見極める。争点はどこか、これを間違えると大変なことになる。松井案の場合はどうか。争点は「78」になっている。89に銀を置くしかないわけで、88にとを置いたりすると、初手より57金、同玉、47飛、68玉、67飛打、59玉、69金、同と、同飛、同玉、67飛、79玉、69飛までといった余詰が生じる。88を開けておかなければならないわけで、本作には随所に危ない筋があり、看寿の苦労が偲ばれるし、修正には十二分に心して掛からねばなるまい。
 天外余詰の争点はどこか。その手順をもう一度見てみよう。
 D図より
58金、56玉、57香、同桂、同金、同玉、69桂、同と、77飛、68玉、67飛打、79玉、69馬、89玉、78馬、99玉、69飛、98玉、89馬まで
 金香と桂の交換である。明らかに損な取り引きだが、その桂をさらに69桂と捨てる。まさに奇想天外、面目躍如ではないか。二枚飛車ならではの威力、それを発揮させるための舞台造りであったわけである。
 天外余詰には、いつもといっていいほどそういった構想性があって、だから余詰められたといった感じではなく、作られたといった感じを受ける。作者にとっては一層ショックだけどね。本名は後藤周吉。全盛期の解図力は文句なく日本一であった。
 さて天外余詰の争点だが、私は「89」ではないかと思う。89で争うべきではないか。すると86の歩を香にすることが考えられる。ところが天外余詰は二枚腰であった。迂闊に86香にすると、次のうっちゃりを食う。69桂、同と、58飛、67玉、57飛打、76玉、78飛、85玉、86銀、同玉、89香以下。69桂、同との次、86歩のときは77飛以下、86香のときは58飛以下である。天外余詰恐るべし!
 困ったときは盤面を見渡すべし。51香があまり役立っていないことに気づく。51香の意味は、3手目から58飛、67玉、68金、76玉、77飛、85玉、52馬以下の余詰を、52馬と入らせないため。ならば、それを効率よく使おうではないの。74香ではどうか。
 かくてE図。

【E図】
17jun01b

57金、同玉、
59香、同馬、77飛、同馬、55飛、同馬、58金、56玉、47馬まで
の所
①58金は、56玉、57香、同桂、同金、同玉、69桂、同と、77飛(58飛は、67玉、57飛打、76玉、78飛、85玉、86銀、同玉、89香、88歩合以下不詰)、68玉、67飛打、79玉、69馬、89玉、78馬、99玉、69飛、89合金サン銀サンで不詰
②58飛は、67玉、68金、76玉、77飛、85玉、86銀、同玉、88香、95玉以下不詰
 どうにか天外余詰とだけはおさらばできたようである。だが、74香にしたって苦肉の策に過ぎない。段階としてはまだ推敲の段階である。実をいうと、この段階が私は好きである。結論を出さずに、毎日材木運びを楽しんでいる。創作の余韻に浸っているといったらいいか。自作ならばの話であって、本作の場合はそうはいかない。ひとの作品の修正なのですぞ。ひとの作品で楽しんではいけませんよ。看寿に笑われます。
 要するにE図は試案である。試案程度でいいのではないか。ひとの作品の修正の場合はこうすれば直るということを伝えるだけでいいのではないか。ただしあまりにもヘタッチイ修正図を見かけると、ついよく直したくなる。それから修正できないなどと書いてあるのを見ると、これまた直したくなる。駒が泣いているような気がして、ほうっておけなくなるのだ。奇想天外同様、私も駒に魅せられた男なのかもしれない。
 昭和も遠くなりつつあり
 享保はなお遠い
 だけど詰将棋の世界では時は流れない
 それは積み重なる
 どこかで見かけたような気もするけれど、まあいいか。ちょっと一杯、グイーッとね。
 また旅に出たくなった。今度は日本海で泣いてくるか。

-----つづく-----

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コメント

B図、玉と銀の位置がずれています。

解答欄魔さま

ご指摘ありがとうございます。
直しました。
もう全部入力したので、見直しているところだったのですが、これには気がつきませんでした。
また厳しいチェックのほど、よろしくお願いします。
入力しながら思ったのですが、送り仮名の間違いとか結構あるんですよ。
基本的にはそのままにしていますけど。
あと明らかな誤記(誤植?)は(ママ)と表記しようかなと思いましたが、直してしまいました。

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