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2013年10月26日 (土)

完本『詰将棋 トライアスロン』その9

1990年8月号
正解者ゼロ

 詰将棋を出題するということは好むと好まざるとに拘らず解答者と勝負するということである。出題者は投手、解答者は打者か。すると正解者ゼロは完封、正解者一名は失点一、正解者二名は失点二か。完封が投手の最高の勲章であるように、正解者ゼロも詰将棋作家の最高の勲章である。
 正解者ゼロを達成するのは難事中の難事である。本誌の無鑑査作家も詰将棋パラダイスの同人作家も一度として達成し得なかったほどである。
 ただ、完封にも、一位完全試合、二位ノーヒットノーラン、三位被安打一、四位被安打二…というランク付けがあるように、正解者ゼロにもランク付けがある。作意を解かれなかったのが完全試合、作意は解かれたが玉方最長などでの間違いがノーヒットノーラン、単なる二手稼ぎ四手稼ぎなどでの転倒が被安打一とか被安打二とかであろう。
 正解者ゼロとして有名なものの一つに高木秀次氏作「千早城」がある。
 まず大手から攻めてみる。

【千早城】
Photo

A手順
34桂、11玉、21角成、同玉、12歩成、同玉、14香、13歩合、同香、同玉、
22銀、14玉、18飛、同飛、13金、25玉、26と、34玉、25と、45玉、
46歩、54玉、63銀不成、65玉、66歩、56玉、57金、55玉、56金、64玉、
74銀成、同金、65金、同金、同歩、同玉、74銀、同玉、75金、73玉、
74歩、62玉、52と、72玉…不詰

 次は搦手からゆさぶりをかけ、それと呼応してまた大手から攻める。

【参考図】
Photo_2

A+B手順
32歩成、同玉、42金、同玉、52と引、32玉、33歩、22玉、34桂、11玉、
21角成、同玉、12歩成、同玉、14香、
13歩合、同香、同玉、22銀、14玉、
18飛、同飛、13金、25玉、26と、34玉、25と、45玉、46歩、54玉、
63銀不成、65玉、B66歩、56玉、57金、55玉、56金、64玉、74銀成、同金、
65金、同金、同歩、同玉、74銀、同玉、75金、73玉、63と、同玉、
53香成、73玉、74歩、72玉、62とまで
 落城か。然らず。この手順、実は“偽作意”なのである。
13歩合の所13金合とされると46歩の所46金となり、すると66歩(参考図)が打歩詰! “金先金歩”の手筋を逆用されるわけで、このことに気付けば、次の手順へ歩を進められるはずである。

【途中図】
Photo_3

A+B+C手順
32歩成、同玉、42金、同玉、52と引、32玉、33歩、22玉、34桂、11玉、
21角成、同玉(途中図)、32歩成、同歩、33桂不成、同歩、12歩成、同玉、14香、13金合、
同香、同玉、22銀、14玉、18飛、同飛、13金、25玉、26と、34玉、
33銀成、同玉、34金、同玉、25と、45玉、46歩、54玉、63銀不成、65玉、
66歩、56玉、57金、55玉、56金、64玉、74銀成、同金、65金、同金、
同歩、同玉、74銀、同玉、75金、73玉、63と、同玉、53香成、73玉、
74歩、72玉、62とまで63手
 途中図からの「32歩成、同歩、33桂不成、同歩」の事前工作が金を歩に変える。“錬歩術”であって、これにより見事に打歩詰を解消できるのである。
  ところが解答者全員討ち死に!
 「A手順」から「A+B手順」へ、「A+B手順」から「A+B+C手順」へという三段構えの構想をよくぞ図化したものである。とくに右上の配置の妙には舌を巻かざるをえない。これぞ本格的難解作であって、解答陣完敗もやむをえなかった、というしかないか。

 ところで、「千早城」は最多駒(39枚)使用だが、最少駒使用の正解者ゼロは「虎バサミ」(14枚)だろうか。小菊花氏作である。

【虎バサミ】
Photo_4

 A手順
34飛、22玉、33角成、21玉、43馬、22玉、44馬、21玉、54馬、12玉、
14香、13角、同香成、同玉、31角、
22香合、同角、同玉、55馬、21玉、
65馬、12玉、14香、13角、同香成、同玉、31角、
22香合、同角、同玉、
66馬、21玉、76馬、12玉、14香、13角、同香成、同玉、31角、
22香合、
同角、同玉、D77馬、21玉、87馬、12玉、14香、13角、同香成、同玉、
31角、
22香合、同角、同玉、32飛成、13玉、15香、14玉、
64飛、44歩合、同飛、15玉、45飛、24玉、35龍、13玉、14歩、12玉、
32龍、22金合、同龍、同玉、13金、33玉、43馬、同銀、同と、24玉、
15銀、34玉、44とまで81手
32飛成は、13玉、15香、14桂合、同香、同玉、64飛、24桂合以下不詰
32飛成は13玉、15香、24玉以下不詰
32飛成は、13玉、15香、24玉以下不詰
D32飛成は、13玉、15香、14桂合、同香、同玉、64飛、24桂合、58馬、25銀合以下不詰
 千日手状態の局面を打開するには32飛成と行くしかない。問題はいつそれを決行するかだ。せいては事を為損じる。87まで馬を鋸で引く。それからだ。その効果は32飛成、13玉、15香のときあらわれる。15香に対し、①24玉なら手順の通り、②14桂合なら同香、同玉、69馬、25桂合、64飛、13玉、68馬、24桂合、23龍、同玉、24飛以下である。69馬の所先に64飛とすると24桂合、69馬、25銀合とされて不詰となるから注意が肝要である。ABCDとの微妙な違いに気付いた者のみ手順に達することができるのである。
  ところが作者はさらに罠を仕掛けていた。ほっとしたときの心の隙をついて。
22桂合なら、同角、同玉、44馬、33桂合、同飛成、13玉、35馬、12玉、24桂、同歩、34馬以下(馬が35→34と移動して詰む)
22桂合なら、同角、同玉、55馬、33桂合、同飛成、13玉、46馬、12玉、24桂、同歩、45馬以下(馬が46→45と移動して詰む)
22桂合なら、同角、同玉、66馬、33桂合、同飛成、13玉、57馬、12玉、24桂、同歩、56馬以下(馬が57→56と移動して詰む)
 ( )内の馬の動きが曲者である。
 途中図は
の一手前の31角まで。
 31角に対し、22香合が手順だが、22桂合なら
イロハ同様早く詰むと思うよね。ところがこのの場合だけ違うのである。馬が68→67と移動できない。67飛が邪魔をしている。けっきょく次の手順で詰めるしかない。

【途中図】
Photo_5

22桂合、同角、同玉、77馬、33桂合、同飛成、13玉、25桂、14玉、64飛、
44歩合、同飛、15玉、14飛、同玉、13桂成、同玉、68馬、14玉、15歩、
同玉、35龍、14玉、26桂、13玉、15龍、22玉、77馬、33角合、同馬、
同玉、11角、32玉、12龍、31玉、22龍まで87手
  するとこの87手の手順が作意ということになる。手順は81手なので。よもやまさかのどんでん返し!  解答者全員がどこかで引っ掛かったのもやむをえなかったかもしれぬ。
  作者は微妙な局面の違いを組み合わせるのが得意なようである。小菊花とはまた可愛らしいペンネーム、本名は果たして──。

※ 注記
「千早城」は「詰将棋パラダイス」1963年2月号。
「虎バサミ」
「詰将棋パラダイス」1981年6月号。作者は黒田紀章氏らしい。

-----つづく-----

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