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2013年10月22日 (火)

完本『詰将棋 トライアスロン』その5

1990年4月号
天馬と荒駒

 黒川一郎氏の作品も修正したことを書かなければ片手落ちであろう。で、今回はそのことを─

 あれはS42年のこと。氏の「天馬」と「荒駒」は大海を漂流中であった。検討を引き受けられた七条兼三氏も持て余し気味。つぶし、修正、つぶし、修正の手紙の往復が二桁を越した。果たして何処へ漂着するものやら、しないものやら。見るに見かねて、TEL。黒川氏からハガキ到着。「昨日はお電話ありがとうございました。お言葉に甘えて早速検討をお願い致します。」その「天馬」も「荒駒」も検討するまでもなく不完全であった。

【A図】
5a_2

 「天馬」(A図)の作意は89馬、11玉、12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、98馬、22玉、88馬、12玉、78馬……という馬鋸趣向である。ところが初手から13歩、21玉、22歩、11玉、12歩成、同玉、89馬、11玉、12歩、22玉、88馬、12玉、13歩……という馬鋸趣向の別詰があった。

【B図】
5b_2

  「荒駒」(B図)の作意は94銀、92玉、91飛、同玉、81歩成、92玉、93歩、81玉、63馬、91玉、92歩成、同玉、74馬、81玉、63馬、91玉、64馬、82銀、92歩、81玉、54馬、92玉、93香、同銀、同銀、同玉、94銀、92玉、65馬、81玉、54馬……という馬鋸趣向である。ところがこれもの所から84銀、92玉、65馬、81玉、54馬以下の早詰があった。
 C図はA図から66手目31玉まで。

【C図】
5c_2

 C図から32歩、41玉、52金、同龍、同馬、同玉、53歩、62玉、73飛成、51玉、54香、52歩、71龍、61歩、同龍、同玉、72成桂、51玉、73角成以下。
 この収束は戴けない。手順がゴツゴツしているし、92龍も47桂も泣いているし。
 D図はB図から68手目82銀まで。

【D図】
5d_2

 D図から多少の応酬後、39の飛が33へ。この収束も戴けない。手順がゴツゴツしているし

 収束は大事である。主題を生かすも殺すも収束次第である。
 主題に収束をくっつけるという作り方もあるけれど、主題と収束は一体という作り方もある。C図、D図の時点で収束を考えるのが前者で、A図、B図の時点で収束を考えるのが後者である。
 私は後者の作り方で「天馬」と「荒駒」を修正してみた。E図とF図がそれである。E図が「天馬」の修正図、F図が「荒駒」の修正図である。
 「天馬」と「荒駒」の主役は“馬鋸”の馬である。「馬の一生」であるわけである。その馬が途中で消え、ストーリーが変わってしまうのでは興ざめであろう。E図とF図はその点も大丈夫、ちゃんと馬の顔を立てた。

【E図】
5e_2

 E図のハイライトは馬鋸以後の「42金、同玉、33金、31玉、21歩成、41玉、51銀成、同金、42歩……」という一連の手順である。ちょっとした配置の違いで、これだけの手順が出現するのである。羽生睨みが必要なわけである。

【F図】
5f_2

 F図のハイライトは馬鋸の最後、27桂がすんなり取られてしまうところ。取られまいとして81玉と寄らず92玉なら、84桂、同金、93歩、同銀、同銀、同玉、82銀、83玉、73馬、92玉、93香まで。86桂・96桂配置の妙を味わって頂きたいものである。
  それから、どちらも87手詰とした。手数を揃えるのは私の得意技の一つである。
 翌日、E図とF図を同封して投函した。黒川氏は誇り高き詰将棋作家である。もしかしたら、いらぬお世話だと怒るかもしれないと思いながら。

 あれから二十三年も経つのですね。往時茫々、黄梁一炊の夢か。それにしても、よくE図とF図を憶えていたものである。
 実はコツがある。詰将棋を憶えるコツが。詰将棋には形と手順がある。形は点、手順は線である。点で憶えるのではなく、線で憶えるのである。線で憶えれば、全部忘れることはまずない。憶えているのだけ盤に並べれば、復元可能なのである。
 将棋は形で憶えるしかない。手順で憶えると大変なことになる。端歩の違いだけでも勝敗所を変える。中原名人が屋敷少年にしてやられた棋聖戦第四局がその好例であろう。それだけに棋士は血のにじむような努力をしているのだと思う。
 形で憶えるより手順で憶えるほうが楽、但し将棋はその限りに非ずということである。
 ところで、黒川氏の「将棋浪曼集」の「天馬」と「荒駒」はE図とF図ではない。作風の違いであるわけで、それはそれでいいのだが、ただ「将棋浪曼集」が氏の分身であるとすれば、私は氏にとっては無縁の存在でしかなかったわけで、今にして思えば、修正しなければよかったのかも、と思わぬでもない。

 E図
24金、12玉、89馬、11玉、12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、
98馬、22玉、88馬、12玉、78馬、11玉、12歩、21玉、22歩、31玉、
32歩、同玉、87馬、22玉、77馬、12玉、67馬、11玉、12歩、21玉、
22歩、31玉、32歩、同玉、76馬、22玉、66馬、12玉、56馬、11玉、
12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、65馬、22玉、55馬、12玉、
45馬、11玉、12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、54馬、22玉、
44馬、12玉、34馬、11玉、12歩、21玉、22歩、31玉、42金、同玉、
33金、31玉、21歩成、41玉、51銀成、同金、42歩、同金、同金、同玉、
52金、32玉、24桂、21玉、43馬、22玉、32馬まで87手

 F図
85桂、同金、94銀、92玉、74馬、81玉、63馬、91玉、64馬、82銀、
92歩、81玉、54馬、92玉、93香、同銀、同銀、同玉、94銀、92玉、
65馬、81玉、54馬、91玉、55馬、82銀、92歩、81玉、45馬、92玉、
93香、同銀、同銀、同玉、94銀、92玉、56馬、81玉、45馬、91玉、
46馬、82銀、92歩、81玉、36馬、92玉、93香、同銀、同銀、同玉、
94銀、92玉、47馬、81玉、36馬、91玉、37馬、82銀、92歩、81玉、
27馬、92玉、93香、同銀、同銀、同玉、94銀、92玉、84桂、同金、
93歩、91玉、83桂、同金、92歩成、同玉、83銀成、同玉、38馬、73玉、
74馬、62玉、63金、61玉、83馬、71玉、72馬まで87手

-----つづく-----

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