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2013年10月21日 (月)

完本『詰将棋 トライアスロン』その4

1990年3月号
駒が泣いている

【A図】
4a_3       

 A図はよく見かける煙詰の収束である。玉頭を歩で連打し、香打までというもの。その最後の歩打を、同玉と取るべきか、取らざるべきか。取れば煙詰だが、取らなければ煙詰にはならぬ。取るも取らぬも五分五分か。取らぬ場合も香打しか手がないのが弱いところ。それでも五分だけ煙詰ならば、煙詰であることには問題あるまい。いや、A図は六分ぐらいは煙詰だと思うけれど、その理由は長くなるので、ここでは触れぬ。
 さてB図。

【B図】
4b_3

 秋葉原ラジオ会館8Fの社長室で、社長の七条兼三氏が浮かぬ顔。訊けば、B図にクレームをつけられたとか。B図は七条社長の双飛詰(煙詰)の収束である。18金を同玉と取り、19飛打まで作意だが、18金を取るのは絶対ではないから煙詰ではないと言った者がいるとか。
 しかしと社長は語気を強め、18金を取らず16玉なら、①17飛まで、②13飛以下、③26飛打以下、と三通りもの手段成立。A図の場合とも違うとおっしゃる。まことに仰せごもっとも。B図は3/4は煙詰であるわけで、これにはもうケチのつけようがない。もしこれにケチをつける者がいたとしたら、それは詰将棋というものをよく知らぬというしかない。
 B図については思い出があって、その原図はC図だったそうである。

【C図】
4c

93桂成、同玉、94歩、92玉、82香成、同金、同香成、同金、93金、同金、
同歩成、同玉、84金、92玉、83金、同玉、74と、同玉、75馬、73玉、
74歩、
82玉、72桂成、同玉、73歩成、同玉、64と、72玉、63と、同玉、
55桂、72玉、63桂成、同玉、64馬、52玉、51と、同玉、41歩成、同玉、
43香生、同と、31金、同玉、53馬、同と、同角成、21玉、22歩成、同と、
同桂成、同銀、12銀、同玉、13歩成、同玉、35馬、12玉、13銀、同銀、
同馬、同玉、14歩、同成銀、22銀、12玉、13歩、同成銀、同銀、同玉、
14歩、同玉、15歩、同成香、23銀、13玉、14歩、同成香、同銀、同玉、
15歩、同玉、16歩、同玉、17歩、同玉、18香、同飛、同金、同玉、
19飛打まで91手

 出来立てのほやほやだそうなC図を見せてもらったときのこと。
 「社長、ちょっと待ってください。22手目82玉
の所63玉と寄ると」
 「それには、62金、同銀、同と、同玉、84馬以下」
  「その84馬のとき、63玉と上がると」
  「73歩成、同歩、72銀まで。アレ?!」
 うっかりミスであった。84馬の利き筋が消えるのを。よくあることである。
 そのとき、社長が玉方を、私が詰方を持って徹底的に検討した。けっきょく
の所の不詰以外は完全であろうということになり、するとD図から逆算するだけでいいわけで、ならば私も逆算してみましょうということになった。

【D図】
4d

 D図からの逆算は十分可能である。それだけに駒を消すだけでは能がない。欲張るべきだ。まだ約1/4の余地があるのだから。
 例えば伏線を張るのはどうか。看寿の煙詰の76香消去程度の単純なものでもいいのではないか。“リフレイン”ということも考えられる。63の所で何度か駒を捨てられる。
 ところで、煙詰の創作法は逆算式だけではない。初形から掘り進み、途中で終形から掘り進んで繋がったという場合もある。逆算式といっても、やみくもに逆算するものもあれば、あらかじめ計画を立て、その線に沿って逆算するものもある。煙詰の創作は慣れれば実にたやすく、だからこそ十局も二十局も作る人がいるわけである。
 次の週、秋葉原ラジオ会館へ直行。どうにかE図を得ていた。63桂・72香消去の伏線と63で金・金・桂捨のリフレイン。
82香成、同玉、83歩成、91玉、81と、同玉、71桂成、91玉、81成桂、同玉、
71香成、91玉、92と、同玉、93歩成、同玉、83桂成、94玉、84成桂、同金、
同と、同玉、75馬、73玉、63歩成、82玉、72と、同と、同成香、同玉、
63金、同玉、64金、72玉、63金、同玉(D図)以下97手。
 どうにか首尾一貫か。怖いのは不完全なので、道々再検討していた。
 ところが、一足ちがいだった。社長の修正図が詰パラへ投稿されていた。その図を見ていないので、D図からどう逆算されたかはわからないが、その後の噂では完全で、そして好評を博したそうである。
 哀れなのはE図で、社長にお見せすることもなく闇に消えた。

【E図】
4e

 私はひとの作品を修正したくなる。駒が泣いているのを見て、見ぬふりができぬのだ。しかしひとの作品を修正するのはかなしきことのみ多かりきである。この頃そのことに気づき、頼まれない限り修正しないことにしているのだが。

 信じられぬ。信じられる筈がない。ついこの間もお会いし、そのときあんなにも元気だったあの方が、あの社長が……。
 それは衝撃波だった。またたく間に伝わった。翌朝、取るものも取りあえず駈けつけたのだが、人々の目は空ろで、改めて失ったものの大きさを知らされた。
 巨星墜つ。

※ 注記
E図は、初手82香成、同玉、93歩成、同玉、83桂成、94玉、85馬、同玉、86金、94玉、93成桂、同玉、83歩成、94玉、84とまでの余詰がある。

-----つづく-----

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