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2013年10月30日 (水)

完本『詰将棋 トライアスロン』その13

1990年12月号
持駒歩18枚

 詰将棋を作るということは越えられないものを越えるということでもある。越えられるものばかり狙っているのではないかとときどき自戒する必要がある。
 無双32番は持駒桂4枚である。図巧72番は持駒金4枚である。一局ずつではあるけれど、宗看も看寿も「一種持駒」を作っていた。一種持駒ということを意識したものかどうかはわからないけれど。「一種持駒」については、かつて三木宗太氏がこう書いている。「一種持駒作品は、見方によれば一色図式(盤面飛2枚・金4枚など)と対をなす初形趣向だともいえるが、盤面使用駒限定よりもはるかに創作の自由度が大きいため、趣向としての稀少価値が若干減じるのは止むを得ない。しかしながら、それだけに密度の濃い内容が要求されるため、一色図式よりも手順・構想そのものに、味わい深いものが多くなっている。(古今趣向詰将棋名作選56ページ)」
 卓見であって、こういった中編で表現できる分野に氏の感性はよりフィットするのかもしれない。
 私もひとつ作ってみるかという気になったのはS59年のことであった。作るからにはいちばん作りにくいものでなければならぬ。すると持駒歩18枚か。調べてみると、その1号局は妙案48番であった。しかも全駒使用のおまけつき。作者はご存じ久留島喜内である。
 A図は妙案48番。

【A図】
13a

 作意
13飛、同玉、68角、同成銀、14歩、同玉、15歩、同玉、16歩、同玉、
17馬、同玉、26銀、16玉、17歩、同金、25銀、15玉、16歩、同金、
24銀、14玉、15歩、同金、23銀不成、13玉、14歩、同金、22銀不成、12玉、
13歩、同金、同銀、同玉(途中1図)

【途中1図】
13a1

 17馬が、馬でなければ成立しないのが面白い。その前の16歩も、取らなければ15銀以下早いというのも面白く、そしていきなり68角の複線。初手13飛といい、久留島喜内の作風は“頭でっかち型”なのかもしれない。
 途中1図より
24金、22玉、23金、31玉、32歩、41玉、42歩、52玉、62桂成、同玉(途中2図)
 つなぎの部分だが、果たせるかな32歩と42歩が不味。51飛は一石三鳥の配置である。21飛成と21銀不成、それから終盤の57金に備えたものである。ところが印象がいまいち。何故かしらん。

【途中2図】
13a2

 途中2図より
63歩、同玉、64歩、同玉、65歩、同玉、66歩、同玉、67銀、同玉、
76銀、66玉、67歩、同成銀、75銀、65玉、66歩、同成銀、74銀、64玉、
65歩、同成銀、73銀不成、63玉、64歩、同成銀、72銀不成、62玉、73香成、同玉、
83桂成、62玉、74桂、同成銀、63香まで79手
 銀と歩で玉を追い下げるのを「銀歩趣向」というが、本作は1筋と6筋の“ダブル銀歩趣向”である。
 玉頭を63歩、64歩、65歩、66歩と叩く。66歩のとき取らなければ65銀以下早い。1筋の16歩、そして6筋のこの66歩、どちらも取るしかないという仕掛けによってほぼ趣向部分だけで18枚の歩を使い切ることができたのである。
★門脇芳雄氏解説
 本局は銀歩趣向。銀歩趣向は「将棋勇略」にも見られるが、本局は二つの筋、1筋と6筋で追い上げを演出して見せる。手順中3手目の68角が最後の最後になって効果を現わす妙手である。難しくはないが洒落た構成である。持駒は歩全部の18枚、置駒は残り駒全部。これも作者の遊びであろうか。
 B図は黒川一郎氏作「不知火」。

【B図】
13b

 作意
35金、46玉、45金打、56玉、67銀、65玉、55金打、75玉、76銀、66玉、
65金、56玉、55金右、46玉、47歩、同成桂、45金左、56玉、57歩、同成桂、
55金左、66玉、67歩、同成桂、同銀、75玉、76銀、66玉、65金、56玉、
55金右、46玉、38桂、同成桂、45金右、36玉(途中1図)
 持駒歩18枚で全駒使用というもの。妙案48番と条件はまったく同じ。
  35金を取り、67金を取る。その金で知恵の輪を作る。手慣れた序奏である。

【途中1図】
13b1

 途中1図より
37歩、同成桂、35金、46玉、47歩、同成桂、45金左、56玉、57歩、同成桂、
55金左、66玉、67歩、同成桂、同銀、75玉、76銀、66玉、65金、56玉、
55金右、46玉、38桂、同成桂、45金右、36玉、37歩、同成桂、35金、46玉、
47歩、同成桂、45金左、56玉、57歩、同成桂、55金左、66玉、67歩、同成桂、
同銀、75玉、76銀、66玉、65金、56玉、55金右、46玉、38桂、同成桂、
45金右、36玉、37歩、同成桂、35金、46玉、47歩、同成桂、45金左、56玉、
57歩、同成桂、55金左、66玉、67歩、同成桂、同銀、75玉、76銀、66玉、
65金、56玉、55金右、46玉(途中2図)

【途中2図】
13b2

 いわゆるハガシ趣向である。そのハガシには歩が必要である。しめた!と作者は叫んだに違いない。37成桂をはがすのに歩3枚、以下の3枚の桂をはがすのに歩4枚ずつ3回で12枚、ここまで15枚必要である。完成を確信した一瞬であろう。

 途中2図より
38桂、同馬、47歩、同馬、45金左、56玉、57歩、同馬、55金左、66玉、
67歩、同馬、同銀、75玉、76銀、86玉、85馬、97玉、86角まで129手
 最後に馬をはがすために歩3枚、計18枚が必要というわけだが、実にうまく計算したものである。収束があっけないが、だからこそ題名の「不知火」らしくもあるか。本作はおそらく黒川氏の全盛期の作であろう。無理が感じられず、駒に勢いがある。
★作者の言葉
 序奏も終曲もない、趣向ズバリであるが、金の往復と歩の協力で次々と成桂を剥がして行く処は、複式知恵の輪とも云うべき作品で、持歩18枚を使い切ったトタンに詰み上がる。その大模様は、まさに作者好みのプロットである。
 闇に閉ざされた天空遙か、今し横五筋の水平線あたりを眺むれば、左右に揺れ動く破頭(金群)に、ちろろと燃えつつ次々にたゆたい消え行く漁火(成桂)を此の手順から想像して頂けようか──。此処に浪曼派の真髄がある。筑紫の海に燃えるてう、不知火程の神秘性はないけれども……。
★山田修司氏解説
 初手35金以下横五段目に金を並べ、金知恵の輪式の舞台装置を作り、豊富な持歩を駆使して玉を左右にふりまわし右下段の成桂を一枚ずつはがして行く。
 成桂をとるのは66玉と追った時が唯一のタイミングで、この位置なら67銀、75玉、76銀のように復元が利く。最後に成桂がなくなって49馬が攻方に取られる運命となる。単調といえばいえる趣向であるが、繰り返しがこの位徹底するとまた不可思議な魔力が生まれてきて作品の醸すアトモスフエアに魅せられてしまう。これが詰棋のロマンチシズムというのであろうか……。
 18枚の歩を完璧に使い切ったこの作は黒川一郎氏の代表作の一つに数えられている。
 久留島喜内は縦の筋に舞台をしつらえた。黒川氏は横の筋に舞台をしつらえるか。歩と金の連係プレーで玉を追い上げ、追い下げる例の手筋がふと頭をよぎったのである。
 その追い上げ、追い下げを何回繰り返せば18枚の歩を使い切ることができるのか。果たして何回繰り返すことができるのか。
 C図は拙作。

【C図】
13c

 作意
73桂成、65金、34龍、同銀、65香、75玉、76歩、86玉、87歩、同玉、
88金、76玉、77金、65玉、66金、54玉、55金、43玉、44金、52玉、
53歩、同金、同金、同玉、54歩、64玉、65歩、75玉、76歩、86玉、
87歩、同玉、88金、76玉、77金、65玉、66金、54玉、55金、43玉、
44金、52玉、62成香、同金、53歩、同金、同金、同玉(途中1図)

 65金の所55玉なら35龍、56玉、36龍、57玉、13角成、48玉、45龍、59玉、
37角、69玉、14馬、68玉、69香、79玉、75龍以下
 54玉の所64玉なら63成桂、同玉、64歩、同玉、55金打以下


【途中1図】
13c1

 途中1図より
54歩、64玉、65歩、75玉、76歩、86玉、87歩、同玉、88金、76玉、
77金、65玉、66金、54玉、55金、43玉、44金、52玉、62成香、同金、
53歩、同金、同金、同玉、54歩、64玉、65歩、75玉、76歩、86玉、
87歩、同玉、88金、76玉、77金、65玉、66金、54玉、55金、43玉、
44金、52玉(途中2図)

 62成香の所42銀成は同金、53歩、同金、同金、同玉、54歩、同玉、55金、53玉、44角成、52玉、62成香、41玉、51成香、同金、11飛、31歩合、同桂成、同馬以下不詰
 75玉の所73玉なら55角成、62玉、53金、同飛、同歩成、54歩以下
 同玉の所95玉なら77角成、84玉、74金、85玉、86馬、94玉、95歩、93玉、83金まで


【途中2図】
13c2

 途中2図より
42銀成、同金、53歩、同金、同金、同玉、54歩、64玉、65歩、75玉、
76歩、86玉、87歩、同玉、88金、76玉、77金、65玉、66金、54玉、
55金、53玉、44角成、52玉、62成桂、42玉、34桂、32玉、33銀、23玉、
24歩、同馬、22銀成、13玉、12成銀、同玉、22馬まで103手
 53玉の所43玉なら44金、32玉、33角成、21玉、11桂成、31玉、32歩、41玉、51馬以下
 追い上げ、追い下げを4回ずつ、歩が足りなくなってしまったのには驚いたが、それだけ構想がよかったのかな。本作も私の代表作であるのかもしれない。

-----つづく-----

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