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2013年10月29日 (火)

完本『詰将棋 トライアスロン』その12

1990年11月号
実戦初形

 私は何にでも手を出す。だが、一局ずつしか作らない。看寿が一テーマ一局だったように。森林を乱伐せず、詰将棋が永遠に続くことを願っている。
 「実戦初形」というのも、そのうち作ろうと思っていた。取っかかりとしては、①53飛成から63桂不成又は43桂不成、②いきなり63桂不成又は43桂不成、③52での総交換、のどれかで。有望な手段がいくつもあると、いつでもいいやという気になってしまうのが私の悪い癖。
 内藤国雄氏に①の手段で先を越されたとき、やはり1号局の栄誉を狙うべきだったかと少々後悔。すぐ気を取り直し、③の手段で一局作成。ところが収束の変同・変長が気に入らず、そのうち直そうが油断大敵、今度は添川公司氏に先を越された。私のと同じ③の手段で。
 どこか抜けてるんだよねえ。どうやら八連続三振の江川型であるらしい。江夏型でないことだけは確か。九人目のバッターのキャッチャーフライを「とるな」なんてとても叫べませんよ。野球は団体競技なのだから、江夏の九連続三振はキャッチャーにエラー一を記録させて成り立ったものである。
 A図は内藤国雄氏作。

【A図】
12a

 作意
53龍、52金右、63桂不成、61玉、71桂成、同玉、82と、同玉、62飛、(途中1図)
 形が作意を暗示している。23○、同玉、24歩----という手順を。23の○は恐らく87の角であろう。しかし87と23の間の遠さよ。その“アリバイ”を崩さなければならない。犯行時、87の角が23に居たということを証明しなければならない。
  53龍のとき52金左なら43桂不成、41玉、31桂成以下。87角配置の妙の一端である。63桂不成以下途中図まではほぼ絶対。

【途中1図】
12a1_2

 途中1図より
72桂合、同飛成、同玉、64桂、71玉、72銀、82玉、74桂、92玉、81銀不成、
同玉、54角63銀合、72桂成、同玉52龍、(途中2図)
 72桂合の所香合があれば不詰。91香配置の意味がついてよかった。
 64桂の所先に54角とすると63歩合、64桂、71玉、72銀、82玉、74桂、同歩で不詰。54角の所先に72桂成とすると同玉、54角、61玉で不詰。手順前後を許さないのはさすが。
 63銀合の所歩合なら72桂成、同玉、52龍、同金、64桂、61玉、62金、同金、43角成以下。同玉の所同銀なら同角成、同玉、64桂、81玉、82桂成、同玉、52龍、同金、71銀以下。
 ウーム、一手一手にコクがあるねえ。
 ナヌ52龍!? 龍を切っちまった。詰みか。よしんば詰みにしろ、ここで詰んではまずいんじゃないの。

【途中2図】
12a2

 途中2図より
同金、64桂、61玉、52桂成、同玉、62金、42玉、53金、同玉、63角成、
44玉、45馬、53玉、63金、42玉、53銀、32玉、23馬、同玉、24歩、
14玉、15歩、同玉、16歩、同玉、17歩、同玉、26銀、16玉、17歩、
同金、同銀、同玉、28金、26玉、27金、25玉、26金、24玉、25金、
23玉、24金、32玉、23金、41玉、52金まで71手
 62金から53金の手段にはしびれた。プロ棋士の底力か。これにより右辺へつながる。
 24歩以下の収束は11香・21桂配置を意味づけてソツがない。
 それより何より、ついに“アリバイ”は崩れた。87角→54角→63角成→45馬→23馬というコースであった。
 これほど巧妙な犯行ならば、人ひとり殺しても許されるのではないか。たしか「一人だけなら許してあげる」という歌があった。一人だけなら殺してもいいという法律に改正すれば、今の世の中少しは住みよくなるかもしれない。
 B図は添川公司氏作。

【B図】
12b

 氏にはスケールの大きさを感じる。それだけ才能が大粒なのであろう。
 本作は「実戦初形+七種合」という豪華なものであったが、13手目から余詰成立。もちろん修正可能であろう。
 本作の取っかかりは52での総交換である。私も同じことを考えていたわけで、よくあることである。面白いのは、取っかかり以後の作り方がかなり違うこと。作風の違いというより、年代の違いというべきか。
 それはともかく、52での総交換の利点は11香配置が意味づけられていることである。総交換直後の53歩のとき61玉の変化がある。それには62金、同銀、52金、72玉、62金、同玉、52飛、71玉、72銀、82玉、61銀不成以下だが、91香がさりげなく役に立っている。そのとき私は「できた」と思った。添川氏も同様の思いだったに違いない。大局観のアンテナが創作可能の電波をキャッチする。その瞬間、詰将棋作家は跳び上がるものなのである。
 C図は拙作。「詰棋めいと」に拾われ、S60年8月15日発行の第3号にて結果発表。

【C図】
12c

 作意
53香不成、52歩合、同香成、同金、同香成、同金、同桂成、同飛、同桂成、同玉、
53歩、同玉、54歩、62玉、82飛、72銀、53歩成、同玉、52金、同玉、
72飛成、62金、61銀、41玉、51金、
32玉、62龍、42香、33歩成、同桂、
42龍、
同玉、52金、32玉、33銀成、同角、同飛成、同玉、25桂、22玉、
33角、21玉、22歩、12玉、13桂成、同玉、14歩、同玉、15金、13玉、
14香まで51手
 主要変化

同玉なら、55飛、53歩合、62龍、同玉、72金、51玉、53飛成以下
同銀なら、23銀、同玉、24歩、12玉、23金、21玉、22金、同玉、23香、31玉、32歩、同玉、41角、31玉、22香成、同玉、23歩成、21玉、32角成まで変化同手数
32玉なら、33歩(33香または33金でも詰む)、21玉、32金、同銀、同歩成、同玉、33銀、31玉、42金、21玉、32金、12玉、22金まで二手長駒余り
★作者の言葉
 
の変同との変長を何とかしようとしていて、添川氏に先を越されてしまいました。私のは“完全な実戦初形”という条件を追ったものです。①玉方の駒が自陣以外にないこと、②詰方の成駒がないこと、③持駒のないこと。この三つの条件を満たし、なおかつ駒数を極力少なくして形を整えたのが本図です。51手詰と短いのと、前述のキズが不満ですが、どう直しても五十歩百歩のようなので、諦めました。
★森田正司氏解説
 昨年末、近将12月号に添川公司作「カオス」が発表されたときすぐに駒場氏から電話があり、「未発表の自作と頭20手が殆ど同じなので驚いた」といわれ、添川作には余詰があることを指摘されました。そこで、同氏の完全実戦初形図式に日の目を見させるべく、作者を口説いて出展してもらった。アンデパンダンはこんな場合に利用できるのです。
 内藤九段が4年前に実戦初形を発表して以来、十局ほど後続作が出ましたが、駒場氏の本作をもって止めをさすのではないでしょうか。持駒なし、成駒なし、四段目以上に玉方駒なしの上、形も整っていて、収束のキズを補って余りあります。今回の収穫の一つでしょう。
 ところで、13手目54歩の所51飛(参考図)には手を焼いた。51飛以下、52角合、55飛、54歩合、同飛、同玉、52飛成

【参考図】
12c_2

 52角合の所歩合なら54歩以下。
 ところが55飛、これが強烈。中央で挟撃しようというものである。したがって、中央から左辺へは詰方の兵を配備するわけにはいかない。作図上多大の制約を受けるわけで、そのぎりぎりの選択が46歩・48銀配置であった。
 52飛成、53桂合、45角、65玉、63龍、64歩合、66金、同玉、64龍、76玉、67龍、86玉、87歩、75玉、76歩、84玉で不詰
 53桂合の所①歩・香合なら45角、65玉、63龍、64歩合、66金、同玉、64龍以下、②金・飛合なら55金、同玉、53龍以下。
 45角の所55金は同玉、53龍、54歩合、77角、66香合、67桂、65玉、75金、56玉、54龍、67玉、57龍、78玉で不詰。
 66金の所54角は66玉、64龍、65歩合で不詰。
 67龍の所①77歩は85玉、67角(86歩、96玉、97歩、87玉で不詰)、96玉、66龍、86香合、97歩、同玉、98歩、同玉、99歩、同玉で不詰。
 87歩の所、76金は、96玉、63角成、74桂合、同馬、同歩、88桂、95玉、97龍、84玉で不詰。
 どうにか逃れているとは思うけれど、余り自信はない。詰方の戦力を少し上回る空間、そのバランスによって成立しているのだから。
 さて本作、詰方の三角形配置を盃に見立て、出撃の一献をイメージする。一気に飲みほせば、17金は銘酒一滴、こぼれけり。
 人間五十年
 下天のうちを較ぶれば
 夢まぼろしの如くなり
 ひと度、生をうけて
 滅せぬもののあるべきか
 いざ出撃──。

※ 注記
「一人だけなら許してあげる」という歌…そんな歌あったっけ?
たぶん野村真樹の「一度だけなら」(1970年)のことであろう。私は詰将棋以上に歌謡曲にはウルサイのである。

-----つづく-----

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