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2013年10月27日 (日)

完本『詰将棋 トライアスロン』その10

1990年9月号
正解者ゼロ②

 詰将棋のミニコニ誌を定期的に発行されている服部敦氏の調べでは、正解者ゼロ作家は、次の七人だそうである。高木秀次、小菊花、田島暁雄、山本昭一、藤本和、横田進一、駒場和男。この中には「あまり面白い作とは思えず、またこの時期に解答の超強豪がその後の黄金時代に比べ少なかったことを考えると、あまり値打のある“正解者なし”ではないかも知れません。」というものもあるそうだが、それにしろ正解者ゼロはたいしたものですよ。
 さて、私の正解者ゼロは「浮雲」「再会」「心理試験」の三作である。といっても、一度目の「浮雲」と二度目の「再会」はS30年の出題である。ということは私の21才のときで、するとハタチ前の作ということになる。未熟な点ありやなしやといまつぶさに調べているのだが、どうやら完璧。看寿が早熟だったように、私も早熟だったのかもしれぬ。
 A図は「浮雲」である。

【A図】
10a

 44飛、同桂、同馬、56玉、57歩、同玉、69桂、67玉、77馬、56玉、58飛、47玉、48飛、56玉、58飛、47玉、48飛、56玉…という打歩詰か千日手かの罠がまずある。たいした罠ではないけれど、それだけに却って油断のもととなったのかもしれぬ。解答者全員次の何でもない罠にかかってしまった。
  46歩、同玉、37角、同玉、48馬のとき、46玉以下の手順を作意として解答してしまったのである。46玉の所28玉なら、38馬、19玉、16飛(途中図)以下早く、よってこれは変化手順としたわけだが、果たして──。

【途中図】
10a_2

 解答の超強豪奇想天外氏の解答用紙にはこうあった。途中図の16飛に対し、①18金合なら29馬、同玉、39金、同玉、36飛、29玉、99飛、28玉、38金、17玉、16飛までで早く、②18銀合なら同飛、同玉、29馬、同玉、38銀、28玉、29金、17玉、16金までで早い、以下略と。要するに、はなから変化扱いだったのである。
 途中図からの次の手順は死角に入っていたのかもしれぬ。46玉以下の、らしい手順があっただけに。
 
17歩合、29馬、同玉、 19金、同玉、17飛、18歩合、同飛左、29玉、27飛、39玉、37飛、49玉…
17飛は18金合、同飛、同玉、27馬、同玉、38金、26玉-不詰
39金は同玉、36飛、38歩合、同飛引、29玉、39金、19玉-不詰
17香なら同飛、18金合、同飛、同玉、17金、同玉、19香、同金、18歩、26玉、36金、15玉、37馬まで
29玉なら27飛、39玉、38金以下
 17歩合、38歩合、18歩合は猛牛の突進をいなす闘牛士のテクニックに似ていないか。
 本作は正解者ゼロではあるけれど、それほど難解ではなく、むしろ易しい部類に属すると思う。易しくても正解者ゼロもあり得るということを実証した希有の例といっていいか。ただ、美しさだけはひけを取らない。これほど美しい作品は「無双」にも「図巧」にもなかったはず。一度盤に並べて鑑賞して戴きたい。非の打ち所がない形・手順には、女性ならば失禁、いや失神してしまうかもしれない。
 作意
46歩、同玉、37角、同玉、48馬、28玉、38馬、19玉、16飛、17歩合、
29馬、同玉、19金、同玉、17飛、18歩合、同飛左、29玉、27飛、39玉、
37飛、49玉、47飛、59玉、57飛、69玉、67飛、79玉、77飛、89玉、
19飛、88玉、78金、97玉、98歩、同玉、99歩、97玉、86歩、同玉、
87金、95玉、96金、同玉、16飛、86銀合、同飛、同玉、76と、95玉、
86銀、84玉、85と、83玉、94と、同玉、95香、83玉、84歩、同玉、
96桂、83玉、84歩、82玉、93香成、同玉、73飛成、92玉、83歩成、81玉、
92と、同玉、84桂、81玉、83龍、82銀、92桂成、71玉、82龍、61玉、
62銀まで81手

【B図】
10b

 B図は「再会」である。最下位じゃないっつうの。本作は超難解であったらしく、あの奇想天外氏でさえ×であった。困ったのは選者で、その黒川一郎氏からこんなハガキが到着。 「貴作再会に就き、小生の都合で解説が伸びて了い、今になって書いて居ますが、疑問の点をお知らせ下さい。尚正解者は一名もありませんでした。馬鋸を47に据えるのは14に利かす為でしょうが、57飛と廻った時、53歩と中合をするのはなぜか?  56の焦点の捨合をした場合と、直ちに41玉と逃げた場合の変化を一つくわしく書いて送っていただけませんか」
 永遠のテーマの一つに“一歩稼ぎ”がある。一歩不足をどこかで補うというものである。あらかじめと金を移動させておき、それを馬鋸で取りにいくのが宗看の無双70番だし、開王手で歩合を強要するのが看寿の図巧99番である。ふと思ったのはこのテーマ、作りようによっては非常な難解作になるのではないかということであった。
 B図から
84香、74玉、52馬、84玉、75金、93玉、84金、92玉、74馬、91玉、
64馬、92玉、65馬、91玉、82銀、同玉、83歩、92玉、81龍、同玉、
71香成、92玉、82歩成、同玉、72成香、同玉、77飛、61玉、62銀、同玉、
73飛成、51玉、53龍、41玉、74馬、32玉、52龍、42桂合、41龍、22玉、
42龍、13玉、33龍、23歩合、同角成、同桂、25桂、12玉、23龍、同玉、
33歩成、24玉、34と、25玉、47馬、16玉、27金、同玉、39桂、26玉、
37金、15玉、16歩、同玉、17歩、同玉、27金、18玉(参考図)

【参考図】
10b_2

 参考図までの手順をまず作る。もちろん一歩不足で不詰となるものである。参考図から19歩、同玉、37馬、29玉、28馬までのための一歩をどこで稼ぎだすか。方法はいろいろあるが、魔術というわけにはいかぬものか。
 作意
84香、74玉、52馬、84玉、75金、93玉、84金、92玉、74馬、91玉、
64馬、92玉、65馬、91玉、55馬、92玉、56馬、91玉、46馬、92玉、
47馬、91玉、82銀、同玉、83歩、92玉、81龍、同玉、71香成、92玉、
82歩成、同玉、72成香、同玉、77飛、61玉、67飛、51玉、57飛(途中図)
53歩合、同飛成、41玉、74馬、32玉、52龍、42桂、41龍、22玉、42龍、13玉、
33龍、23歩合、同角成、同桂、25桂、12玉、23龍、同玉、33歩成、24玉、
34と、25玉、47馬、16玉、27金、同玉、39桂、26玉、37金、15玉、
16歩、同玉、17歩、同玉、27金、18玉、19歩、同玉、37馬、29玉、
28馬まで81手

【途中図】
10b_3

 67飛の所62銀、同玉、73飛成、51玉、53龍…という手順は、馬鋸の馬が65のとき、56のとき、47のとき、と三度行うことができ、それぞれかなりの筋あり。だが、けっきょく一歩不足で不詰である。
 馬を鋸で47まで引き、飛を77から57まで寄せる。種も仕掛けもないよね。たったこれだけで一歩を得ることができたらご喝采。
 途中図の57飛に対し、41玉なら、14馬、
①32歩、42歩、同玉、24馬、33桂、同歩成、同歩、34桂打、41玉、23角、同桂、同馬、32香、同馬、同玉、52飛成以下、②32香、42歩、同玉、24馬、33歩、同歩成、同香、34桂、41玉、23角、同桂、同馬、32歩、42歩以下、③32桂、同馬、同玉、52飛成、42香、24桂22玉、42龍、13玉、33龍以下、④23歩、同角、同桂、同馬、32歩、42歩、同玉、33歩成、同歩、34桂打、同歩、同桂以下である。
 41玉なら14馬以下が詰み。その詰みを外すには途中図のとき、
53歩合しかない。そのココロは、①同飛不成なら41玉、14馬、42玉、24馬、53玉と脱出、②同飛成なら41玉、14馬、32歩で、次の42歩が打歩詰、というわけ。
 だがしかし、遂に一歩を入手できた。方向転換し、74馬以下参考図を目ざしてまっしぐらである。
 本作の構想は奇想である。魔術的である。その集約、「53歩合」こそまさに“悪魔の一着”であろう。選者の泣きもむべなるかなだし、正解者ゼロもまた当然の結果であった。
 ところで、これを詰めたら初段とか何段とかと、よくやっているよね。すると誰にも詰められなかった詰将棋の作者が最高段のはずだよね。詰将棋作家の最高段は王位だそうである。ならば正解者ゼロ作家は王位を名乗るべし。そのうちに王位だらけになってしまう王位と区別し、“実力王位”とすることにするか。いやいや、冗談だよ。いや冗談じゃないかもしれぬ。

-----つづく-----

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