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2013年10月20日 (日)

完本『詰将棋 トライアスロン』番外1「黒川さんのこと」

1990年2月号
黒川さんのこと
いちめんのなのはな

 黒川さんが珍しく怒っていた。詰将棋の解説についてである。作意を省略するのはとんでもないと。馬鋸や龍鋸などの繰り返し手順を「……」で省略する。これでは初心者には不親切だし、作品の分量もわからない。手数が明示してあればいいというものではないだろうとね。
 至極同感であって、そのとき私がフト思ったのは、確か「いちめんのなのはな」という詩であった。平仮名だったか片仮名だったかも忘れたし、誰の作かも思い出せぬ。「いちめんのなのはな いちめんのなのはな いちめんのなのはな」と、同じ言葉が十行も二十行も続いているだけであった。それはまさに絵画であった。絵画的詩であった。それを目にしているうちに、いつしか広い菜の花畑で寝ころんでいる自分に気づいたのであった。
 馬鋸や龍鋸などの繰り返し手順も“いちめんのなのはな”ではないのかな。絵画的美があるはずである。そこで寝ころぶこともできるのではないか。
 察するに、誌面節約のための省略なのであろう。しかしそれでは初心者にはソッポを向かれ、作家には敬遠される。詰将棋ファンが増えるわけはないわなと、黒川さんと泣き笑いしたものであった。
 それが最後であった。それから数日後、黒川さんの訃報を耳にし、度を失ってしまった。
 最初は悪い冗談だと思った。ところがそうでもなさそうなのである。目の前が暗くなった。電話というのは困ったもので、何かしゃべっていなければならぬ。金魚みたいに口をパクパクさせていたような気がする。
 黒川さんは気さくな人で、ちょっと声をかけると遠路もいとわず、すぐ来てくれたこともしばしば。普段着に下駄ばきがよく似合い、江戸っ子特有のあのよく響く声で、いつも一座をリードしてくれた。接骨医という職業のせいか手が柔らかく、その素早い手の動きに幻惑されて時々将棋を負かされたが、そのときの喜びようといったらなかった。黒川さんは詰将棋より将棋の方が好きなのではないかと錯覚をおこさせるほどであった。
 S30年12月29日、黒川さんからはがき到着。「只今の処、私は創作していませんが、左図は修正に修正を重ねたもので一応完成と思われますが、ご多忙中とは存じますが一つ検討して下さらば幸いと存じます。手順としては何の奇もなき追詰でたわいない代物とは申せ、実に苦心に苦心を重ねたもので、私としては生涯のうちに3局の煙詰を作ろうと思っているので、これは2局目となるわけです。発表するとしたら来年の積りです。とにかくけむりは作成が至難で趣向を織り込まねば仲々出来難いものです。植田君作の如き創作型は奇蹟に近いものです。私のもやはり趣向プロットを入れざるを得ませんでした」
 先駆者の苦労が滲み出ていないかな。黒川さんの偉いところは“コピー煙詰”を作らなかったことである。全部でたしか8局、いや9局だったかな。そのどれもが趣向入りで、新手順である。江戸前職人がいなくなってしまったかと、感無量である。さびしーっ!

「やすり」
Photo

67と引、79玉、69馬、同玉、68金、79玉、78金、89玉、88金、99玉、
98金、同玉、48龍、同金、97と引、99玉、98金、89玉、88金、79玉、
78金、69玉、68金、59玉、58金、同金、同と、同玉、57と引、69玉、
68金、59玉、58金、49玉、48金、同玉、38金、59玉、58と、同玉、
48金、69玉、68と、同玉、58金、79玉、78と、同玉、68金、89玉、
88と、同玉、78金、99玉、98と、同玉、88金、99玉、98金、89玉、
88龍まで61手詰

「不知火」
Photo_2

35金、46玉、45金打、56玉、67銀、65玉、55金打、75玉、76銀、66玉、
65金、56玉、55金右、46玉、47歩、同成桂、45金左、56玉、57歩、同成桂、
55金左、66玉、67歩、同成桂、同銀、75玉、76銀、66玉、65金、56玉、
55金右、46玉、38桂、同桂成、45金右、36玉、37歩、同成桂、35金、46玉、
47歩、同成桂、45金左、56玉、57歩、同成桂、55金左、66玉、67歩、同成桂、
同銀、75玉、76銀、66玉、65金、56玉、55金右、46玉、38桂、同成桂、
45金右、36玉、37歩、同成桂、35金、46玉、47歩、同成桂、45金左、56玉、
57歩、同成桂、55金左、66玉、67歩、同成桂、同銀、75玉、76銀、66玉、
65金、56玉、55金右、46玉、38桂、同桂成、45金右、36玉、37歩、同成桂、
35金、46玉、47歩、同成桂、45金左、56玉、57歩、同成桂、55金左、66玉、
67歩、同成桂、同銀、75玉、76銀、66玉、65金、56玉、55金右、46玉、
38桂、同馬、47歩、同馬、45金左、56玉、57歩、同馬、55金左、66玉、
67歩、同馬、同銀、75玉、76銀、86玉、85馬、97玉、86角まで129手詰

「狭霧」
Photo_3

27と、同成桂、17歩、同成桂、26と、同玉、36と左、16玉、26と、同玉、
37金、15玉、16歩、同成桂、25と、同玉、36金、14玉、15歩、同成桂、
24と、同と、同と、同玉、35金、13玉、14歩、同成桂、23と、同玉、
34金、13玉、22銀生、12玉、11と、22玉、32と左、同銀、同と、11玉、
22と、同玉、52飛成、同龍、33金行、11玉、22銀、同龍、同金、同玉、
32飛、13玉、12金、24玉、35飛成、23玉、34龍、12玉、14龍、22玉、
32香成、同玉、42歩成、同玉、44龍、51玉、63桂打、同金、同桂、同金、
52金、同玉、43角成、62玉、61馬、同玉、83馬、同歩、72銀、51玉、
53香、52歩合、同香成、同玉、63銀、同玉、64金、62玉、53龍、71玉、
72歩成、同玉、85桂、82玉、72香成、同玉、73金、81玉、82歩、同と、
同金、同玉、73桂成、81玉、83香生、同銀、82歩、91玉、92歩、同銀、
51龍、81歩合、同歩成、同銀、同龍、同玉、72銀、91玉、92歩、同玉、
83銀成、91玉、82成銀まで123手詰

※ 注記
1990年1月は休載。
この回は「詰将棋 トライアスロン」の文字がないので、番外編とする。
「いちめんのなのはな」は「風景」という題名。山村暮鳥の詩。
原文では「不知火」は133手詰とあるが、129手詰が正しい。
「風ぐるま」発表図は収束余詰。本図は修正された『将棋浪曼集』第20番。

-----つづく-----

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